420: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:52:59.99 ID:s8phhYh5O
みくがそう云うのも無理はない。本日のバトルは、ダブルスコア以上の大差をつけて、凛に圧勝したからだ。
みくは、パフォーマンスも、バックボーンも、そして惹き付ける話術も凛とはまるで違った。
年齢からは考えられないほどグラマラスなボディラインに、アダルティな持ち歌。
421: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:54:07.93 ID:s8phhYh5O
「みくはレッスンもライブも、そしてプロデュースも自分一人でやってるにゃ」
彼女の言葉には、重みがあった。それ相応に苦労してきた――そんな自負が色濃く滲んでいる。
「そっちは専属の指導者がいるのに、全てセルフプロデュースしてるみくに惨めな負けを晒して、
422: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:54:34.26 ID:s8phhYh5O
この間仕事で大失敗した時とは比べ物にならない喪失感が、凛を津波の如く呑み込む。
自らの責による先日と違い、今日は全力を出した結果の敗北。
「凛、今日は残念だったな。切り替えて次は頑張ろう」
423: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:55:01.26 ID:s8phhYh5O
なにぶん、みくを称えるステージ上の姿をPは見ていたのだから、
ドアを開けるまで凛がこんな状態になっているとは思うまい。
しかしあれは、負けん気の強い凛が、最後の力を振り絞った行動だったのだ。
424: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:55:31.95 ID:s8phhYh5O
「俺たちは、負けたんだ」
Pの宣告に呼応するかのごとく、凛は崩れ落ちた。
床へ膝を突いた敗者は、力なく拳を握ることしかできない。
425: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:56:13.39 ID:s8phhYh5O
――
翌日。
426: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:56:52.83 ID:s8phhYh5O
自らのことでありながら、凛にとって意外に思ったのは、負けたことが想像以上にショックだった点だ。
例えば運動競技で力が及ばなかったとか、テストで上位を取れなかったとか、負けたことなど過去数知れずある。
なのに、ライブでの敗北は、過去のどんな負けよりも、深く心臓を抉り込むように凛の心を突き刺した。
427: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:57:28.57 ID:s8phhYh5O
勿論、凛は自分が卯月たちより勝っているとは露程も思っていない。
むしろ彼女らより明らかに劣っている。それは最初のレッスンの刻から判り切っていた話だ。
それでも、改めて第三者に落ちこぼれの烙印を押されると云うのは、軌道に乗り始めた凛には辛い現実だった。
428: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:58:00.41 ID:s8phhYh5O
――つまんにゃい。
たまらず眼を瞑る。
――つまんにゃい。
429: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:58:30.32 ID:s8phhYh5O
荒い呼吸に、歩みを一旦止める。
みくの声を掻き消してくれと云う思いが天に届いたか、飛行機の轟音が響き渡った。
ここは米軍基地の滑走路南端をかすめるように延びる道路。
430: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 05:59:33.57 ID:s8phhYh5O
見送ったのち、視線を下げると、ハナコが不思議そうに、飼い主の表情を窺っていた。
「……ごめんね、ハナコ」
凛は、自らを見上げる小さなヨークシャーテリアを抱き上げた。
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