785: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:03:28.55 ID:3+pD+bLQo
 「私、このままやっていけるのか……」 
  
 消え入りそうな凛とは対照的に、強くはっきり麗の声が響く。 
  
 「案ずることはないだろうさ。いつだったかも云ったように、渋谷にはP殿がいる。 
786: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:04:02.54 ID:3+pD+bLQo
 「最近、渋谷はそれをちょっと忘れ気味だったんじゃないか?」 
  
 麗が意地悪く笑って云った。 
  
 しかしその顔はすぐに慈悲深くなる。 
787: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:04:30.85 ID:3+pD+bLQo
 麗の頭の中には答えがあるらしい。しかし、それを凛に伝える術がないのだ。 
  
 頭同士をケーブルでつなげられるテクノロジがあれば便利なのに。 
  
 そうすれば、頭で思ったことを自動的に文字へ起こしてくれる機械も出ることだろう。 
788: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:05:27.87 ID:3+pD+bLQo
  
  
 ―― 
  
 「う〜〜川島さん、とっくりでもう一本、たっぷりくださいな」 
789: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:06:00.04 ID:3+pD+bLQo
 「この忙しい時期に温泉なんて……」と呆れていた凛も、いざ到着して浴衣に着替え、 
 卯月と未央と温泉街を散歩してみた途端に「まぁ悪くないかな」と云い出す現金な反応を見せた。 
  
 フェスから二箇月弱、ソロでの仕事がほとんどを占めていた凛にとって、 
 ニュージェネ三人でゆっくりできる機会は相当久しぶりのことだった。 
790: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:06:29.71 ID:3+pD+bLQo
 対して、Pは心休まる暇がない。 
  
 鏷は「ちょっくら遊んでくる」と温泉街の中心部へ繰り出した上に、 
 銅は何故か自分磨きと称してホテルでエステを受けている。 
  
791: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:07:12.04 ID:3+pD+bLQo
  
 さておき、翌日のライブまでは、慰安旅行のフェイズだから楽しまねば損である。 
  
 損なのだが、凛は生来の真面目さゆえか、陽が落ちると既にライブのことで頭が一杯になっていた。 
  
792: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:07:39.46 ID:3+pD+bLQo
 「……駄目だ。もう一回、お風呂に行こうかな」 
  
 横になっている同室の卯月と未央を見やってから溜息を吐いて、独り、部屋を出る。 
  
 紫色の絨毯が敷かれた廊下を暖かな橙色の光が照らし、 
793: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:08:06.10 ID:3+pD+bLQo
 「あれ……」 
  
 いきなり目の前で大人アイドル二人が酒盛り中だった。 
  
 温泉の露天風呂で、燗酒を傾ける――これは模範的な、駄目な大人の姿だ。 
794: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 22:08:34.41 ID:3+pD+bLQo
 凛は邪魔しないよう、少し離れたところで湯浴みを味わう。 
  
 穏やかで、静かで、悪くない湯だった。 
  
 空を眺めると、満月が輝いていて、視界の端には色づく樹々も入る。 
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