84: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:00:03.34 ID:s8phhYh5O
凛は、名刺から目を離せないまま、訥々と口を開く。
「……こないだ、社長のオジサンから……スカウトされたの」
「あ、そうなの!? なんだ、じゃあ話は早いじゃないか。時間空いてる? 事務所行こう」
85: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:00:33.92 ID:s8phhYh5O
「えぇ? あんなにアイドルを食い入るように見てたし、なんやかんや云っても少なからず興味あるんだろう?
更には既にうちの社長からスカウト受けてて。こんなの断る理由なんか無いじゃないか」
「……だって、凡人の私が、あんな輝く世界でやっていけるとは思えないから」
86: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:01:02.23 ID:s8phhYh5O
「新しいことを求めて、何かを変えようと必死で藻掻いても、何も変わらなかった! 何も変えられなかった!」
――結局、大人や社会が敷いたレールの上を走って、いくつかの選択肢をつまむだけ。
「自由に走り回れることなんてない! それが赦されるのは、運命に選ばれた一握りの人間だけだよ!」
87: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:01:39.46 ID:s8phhYh5O
凛が目を開け、視線を上げると、彼は柔和な笑みを浮かべていた。
しかしその顔は同時に少しだけ哀しそうで――凛には、その表情の意味するところは判らなかった。
「確かに上手くいかないことも往々にしてあるさ。でも諦めずに希求することを忘れちゃいけないと思うね」
88: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:02:10.50 ID:s8phhYh5O
「俺の補佐をしてくれる人がたまに云うんだよ」
Pはバツが悪そうに、後頭部を掻いた。そして軽く咳払いをしてから、
「ま、自分の目の届く範囲だけが世界の全てってわけじゃないんだ。
89: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:02:48.62 ID:s8phhYh5O
凛は、何も云えずに立ち尽くした。
挑戦しなければ、手に入る可能性は確実にゼロ――
90: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:03:17.47 ID:s8phhYh5O
「確かに、アンタの云う通り……でも、アイドルなんてこれまでの生活とガラリと違う場所、本当に行けるの?」
そう、いま立っている分岐路は、全く未知の世界へ続いているのだ。
見たことのない土地を、地図も持たずに歩いているようなもの。
91: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:03:50.95 ID:s8phhYh5O
凛が小首を傾げたので、補足の言葉を続ける。
「その日、他のアイドル候補生の子たちが来るらしいから、会ってみてはどうだろうか。
やる・やらないの結論を出すのは、それからでも遅くはないと思う」
92: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:04:22.65 ID:s8phhYh5O
・・・・・・・・・・・・
93: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:04:55.96 ID:s8phhYh5O
「ここの三階みたいだけど……なんか胡散臭そうな場所だね……」
再度名刺の住所を確認するが、目の前の古ビルで間違っていない。
――これ、本当に大丈夫なのかな……
94: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:05:27.33 ID:s8phhYh5O
「ん?」
凛が声のした方を向くと、そこには緩くウェーブの掛かった長い髪の女の子が、柔和な笑みを湛えて立っていた。
ベージュのブレザーに赤茶色のチェックスカートは、彼女の制服だろうか。
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