過去ログ - 響「今ここにいる奇跡に」
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2:乾杯 ◆ziwzYr641k[saga]
2015/08/11(火) 21:59:23.38 ID:wqQE0kJT0

夕暮れどき、大きな半島と離島の狭間、粉雪降りしきる冬の日本海を進む船影が一つ。
北の大地の言語で『信頼』と名付けられた旧式艦船。
その周囲でふいにいくつもの水しぶきが上がる。四方で生じた白波がスマートなフォルムを揺さぶる。


「стрелятьー(アゴー)!!」


雄々しい叫び。観測射撃の着弾点を視認したのち、照準を改める優秀な軍人たち。
手際よく再装填された鋼の弾が砲口から飛び出す、緩やかな弧を描いて船に迫る。
着弾、轟音。防御甲板がひしゃげる、船上甲板がめくれ返る、艦橋の一部が吹き飛ばされる。
砲撃音が発せられる度に大きく震える船体、各所から火の手が上がる、紅蓮の炎に包まれる、灰から蘇る不死鳥のように。


「大丈夫だよ、わたしは一人でも」


痛みと熱に身を蝕まれながらも、少女は自らに言い聞かせ続けてきた呪文をささやいた。
頼もしき乗組員たちの勇敢さと悲哀。南洋の海に散った大勢の仲間、姉妹たち。
多くの生と死を見届けてきた者に課せられた責任と義務を、ようやく手放す日が来たのだと思った。

満身創痍の船体、亀裂がみるみるうちに広がる。海水が船内になだれ込んでくる。
辛うじて保たれていたバランスが失われる、細長い舳先がゆっくりと天に向かう。

「ああ……、なんて、綺麗なんだろう」

火の粉と白雪に彩られた幻想的な空の下、少女は泡の棺に抱かれ、眠るように目を閉じた。

彼方に閃く砲火が、自分を仲間たちの元へ送り出してくれるのだと、そう信じて。


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