38:乾杯 ◆ziwzYr641k[sage saga]
2015/08/21(金) 23:00:36.59 ID:XKRiySpR0
「……………………」
遅れてきた男、目にも止まらぬ箸さばき。皿に盛られた料理の減る速さが二倍増しに。
のみならず、頃合いを見計らって追加の酒を持ってきた女将にお代わりを要請。老公、響、二人して呆気にとられている。
「おい、少しは味わって食ったらどうなんだ」奉公人たちが皿を下げたタイミングで我に返る老公。
「いや申し訳ない、朝から飯を食う暇が、ありませんで。しかし、どいつもうまい。御大が行きつけに、されてるだけ、あるな」
男――苦言を意に介さず。手に持つ箸が蒸した魚と炊き込みご飯とを行き来する。
「ったく、遠慮のないやつ――――と」
驚くべき変わり身の早さ。食ってばかりかと思いきや、上座側についと進み出、いつの間にやら徳利を手にしていた。
「さささ、どうぞ一献」
ちょうど空になりそうだった杯をちょっと複雑な表情で眺めている老公。男が笑みを浮かべながら酒を八分程度まで補充する。
そんな二人のやり取りを横目で観察しながら茶を啜る響。思ったより抜け目がない。微妙に評価を上方修正。
「響さんも、おやりになりますか」
「え……? い、いや、わたしは」
意表を突かれた響。言葉少なに申し出を辞去。
別に飲めないというわけではない。むしろいける口だ。北には帝国のものよりずっと強烈な、喉を灼くような酒があった。
ただ男の接する態度に困惑していた。女子どもに自ら酌を申し出るなど帝国軍人にあるまじき行為ではないのか。
そこで初めて、この男は軍人ではないのかも知れない、そう思った。
そしてますますわからなくなってしまった。軍人ではないとするなら、なにゆえ自分と同席させたのか。
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