過去ログ - 卯月「プロデューサーさんの、本当の幸せを」
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◆8g8ZKJa8Ps
[saga]
2015/08/24(月) 01:51:43.23 ID:20TbIrfu0
本当は、いろんなことをお話ししたいんです。事務所を辞めるなんてことがただの噂かどうかを確かめたいんです。でもプロデューサーさんはとても忙しくて、私のためだけに何時間も長電話するような暇はありません。お仕事中はもちろん、お仕事が終わった後も。
疲れているプロデューサーさんに負担はかけられませんし、それに、プライベートなことを話すのは……アイドルとプロデューサーという関係からすると、ちょっと間違っているような気がします。
どこまでがただの女の子の島村卯月で、どこからがアイドルの島村卯月なのか。私は器用じゃないから、そういった線引きができなくて、プロデューサーさんとは、お仕事以外でお話をしたことがあまりありません。してはいけないと思ってしまうんです。
正直なことを言ってしまうと、私はたぶん、プロデューサーさんのことが好きです。でも私はアイドルでいたいから、プロデューサーさんが自慢できるようなアイドルでありたいから、素の私は見せられません。あくまでもアイドルの島村卯月として接するしかないんです。
――ああ、そうでした。プロデューサーさんと長電話するフリを始めたのは、私が自分の気持ちに気付いたころでした。
もしも、もしもアイドルじゃない島村卯月と、プロデューサーではないプロデューサーさんが出会っていたら、どうなっていたんだろうか。どこで知り合って、どんなふうに仲良くなって、どうやって恋人同士になるのか――これは、そんなむなしい空想の産物なのです。
わかっています。もしも私がアイドルじゃなかったら、そもそもプロデューサーさんと出会うことすらなかった。あの人を好きになることもなかった。運命というほど大それたものではありません。ただ、お互いが収まるところに収まっているだけなのです。私とあの人はアイドルとプロデューサーだから――きっと、結ばれない運命のもとでしか出会うことができなかったんでしょう。
仕方ないと思っていました。ずっと黙っていようと心に決めていました。だってアイドルは恋をしてはいけないんです。裏切ってはいけないんです。夢を壊してはいけないんです。それが、アイドルとして普通の――いえ、最低限のことですから。
だからプロデューサーさんとは必要以上の会話はしてこなかったつもりです。スキンシップも控えてきました。アイドルの島村卯月であり続けるためにプライベートな相談もしませんでした。わたしはアイドルなんです。事務所のみんながプロデューサーさんと打ち解けていくのを笑ってみているしかありませんでした。プロデューサーさんとどこそこへ行った。プロデューサーさんにプレゼントを買ってもらった。プロデューサーさんと食事をした。そんな他愛のない会話を、私は笑ってあいづちを打ちながら、心の中では唇を噛みながら聞いていました。
素の自分のまま接することができる彼女たちが羨ましかったんです。アイドルではなく、一人の女の子として、プロデューサーさんと向き合える彼女たちが、その勇気が、無神経さが、羨ましかったんです。でもそれだけでした。だってプロデューサーさんはプロデューサーさんでしたから。みんながどんなにアピールしてもさらっと流してしまうんです。優しい顔で、ホッとする声で、いつだって上手にあしらってしまうんです。
報われない恋でした。私だけではなく、プロデューサーさんのことを好きなアイドルは、みんな報われない恋をしていたのです。だから私は安心してアイドルを続けることができました。プロデューサーさんは誰とも結ばれることはないと思っていました。ずっと私の、私たちの、優しいプロデューサーさんでいてくれると信じていました。
ですから、いいんです。気付いてくれなくて。そばにいてくれるだけで。
それだけで島村卯月は幸せでした。
――本当に、本当に。幸せだったんです、あの瞬間までは。
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