12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:20:18.47 ID:rVNZ4GiQo
『櫻子ー! ごはんできたー!』
「あっ……うん! 今いくー」
「あらもうこんな時間……長居はしないって言ったのにごめんなさい。私そろそろ戻りますわ」
「そう……わかった。じゃあね」
夕飯の合図に促されて櫻子は立ち上がった。私もそこで一緒に立ち上がり、空になったクッキー缶を手に櫻子と玄関へ向かう。花子ちゃんも一緒に私を見送ってくれた。
「それじゃあ、また」
「うん……またね」
「ばいばい、ひま姉」
「ええ、花子ちゃんも」
真冬の玄関の冷えた空気は、例え隣の家に帰るだけでも外に出たくないと思わせる。
しかしそれとはまた別のこの家を出たくないという気持ちが、玄関のドアに手をかけた瞬間膨れ上がった。
「あっ、あの」
「ん……?」
「ええと……その……」
櫻子に目を見つめられて思わず恥ずかしくなったが……クッキー缶を持つ手に力を入れ、勇気を出して胸の内の言葉を伝えた。
「また今度、お菓子作ったら持ってきますわ。今度はもっと時間のあるとき……週末とか。バイトはしてないんですもんね?」
櫻子は少しはっとなって、軽く目線を下げて何かを考えた。
もしかして断られてしまうのかと一瞬不安になったが、花子ちゃんが無言で櫻子の脇腹をちょんとつつくと、「う、うん」と言ってくれた。
「ありがとう。それじゃあまたその時に」
「じゃあね、向日葵」
「ええ」
外に出ると、冷たい夜の風が私の服の中まで吹き込んできた。慌てて自分の家に戻り、外気から逃れると……途端にぽかぽかと身体が温かくなってきた。
どうやら私は……ひどく緊張していたらしい。
しかし、関わりが薄くなって心配だった櫻子と久しぶりに話すことができた。時間にすればほんの数十分だったかもしれないが、それでもここ何ヶ月も櫻子のことを思い出して悩んでいた自分にとっては充分なほどの安心感をもらえた。
またお菓子を作れば櫻子に会える。櫻子の顔が見られる。櫻子と話せる……そう思うだけで胸の内から冷たい手の先まで温かくなっていく気がした。
今度は何を作ろうか……やはり今は寒いから、温かいカップケーキなどいいかもしれない。今度時間のあるときに買い出しに行ってみよう。そんなことを考えながら、楓の待つ部屋へと戻った。
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