17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:24:54.18 ID:rVNZ4GiQo
「あ、ありがとう……まさかOKされるとは……」
「な、なんだよ……そっちはわざわざこれ言うために来てくれたんでしょ?」
「そうなんですけど、当初の予定……あ、いえ……なんでもありませんわ」
トングを手にパスタを茹でる花子ちゃんが少し微笑みながら私の方を見た。
花子ちゃんに感謝しなくては。私が想像していたよりも数倍良い結果に事は収まっていた。このバレンタインデーというチャンスに、一番いい形で櫻子を確保することができてしまった。
櫻子は「詳しい予定とか決まったらまたメールでもしてよ」と言うと、カップケーキの残りをかじって花子ちゃんの手伝いに戻った。リビングに残された私は二人に聞こえないように深呼吸をすると、また緊張がほぐれていく温かさが胸の内から広がっていくのを感じた。
櫻子と、デート。
櫻子と、バレンタインデーに、二人きり。
こんなことは今までにあっただろうか。いくら長い付き合いの私たちでも、バレンタインデーに二人でどこかにでかけたことなんて過去に一回も無いかもしれない。きっと昔の私たちは気恥ずかしさに負けてしまって、たとえ条件が揃っていても踏み出せなかったに違いない。
こんな事態になるとは予想していなかったので、帰ったらすぐにでもその日の予定を決めなければいけないと思った。私が誘ってしまったのだから、私が計画を仕切らなければ。
そろそろ帰ると伝えると花子ちゃんがトングをかちかちしながら櫻子を「送ってあげろし」と促した。二人で玄関まで来て、靴をしっかり履いてから櫻子に向き合った。
「それじゃあまたその時に。いろいろ考えておきますわ」
「ん……わかった」
玄関を出てからはっとする。冷えた手で自分の頬を揉むと、自分の顔が想像以上にやわらかくなってしまっていることに気づいた。
どうやら無意識に笑顔になってしまっていたらしい。これではまるでデートの約束を了承してもらってうかれているみたいではないか。櫻子に変に思われなかっただろうか。
しかし取り付けた約束は本物であり、とんでもないラッキーが起こったのは事実だった。私の中に渦巻く嬉しいという感情もまた本物だ。
誰かとデート、もとい二人きりででかけることさえ私にとっては久しぶりすぎるものだった。ここ最近家族以外の人とどこかに遊びに行ったりしたことはない。
こんなことではいけない、一世一代のこの機会を無駄にはできない。私は自宅の玄関まで数メートルしかない距離を小走りで駆け抜けた。
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