26:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:30:41.80 ID:rVNZ4GiQo
「あ、言い忘れてたけど……」
「?」
「向日葵のそのコートも……似合ってるよ。ごめん、言うの遅くなって……」
「…………くっ、ふふふっ……///」
「なあっ、笑うな!」
「いえいえ、はぁ……ありがとうございます」
急に放たれた予想外のその言葉はあまりにもおかしすぎて、私は思わず顔を覆って笑ってしまった。
櫻子は真っ赤になってうつむいている。笑うことでもないのはわかっているが、私は失礼なくらい笑うのを引きずってしまう。こんなに可笑しいと思えたことは久しぶりだった。
そして、
「……ん」
(きゃっ!?)
櫻子は一歩身を寄せて、私の腕に自分の腕を絡めてきた。多少バランスを崩した私は、そのまま腕を抱きしめるようにもたれる形となる。
こんな手のつなぎ方をするのは初めてだった。私の不安定な体勢のせいで少々歩きにくくなっていたが、櫻子は構う様子もなくしゃんと歩いてくれた。
(うぅ、ど、どうしましょう……!)
私は恥ずかしくてたまらなかった。腕を絡めていることがではなく、鏡を見ずとも自分の顔が真っ赤になってしまっているのがわかっているからであった。
今日という日はバレンタインデー。こんなところを誰かにでも見られたら……まるで恋人同士だとでも思われないだろうか?
いや、思うに決まってる。
だって私は……この人が好きなのだから。
その気持ちこそが私を、私たちを恋人同士に見せる一番の魔法なのだから。
櫻子の横顔は、つい先ほどの「そのコート似合ってるよ」と言った時と同じ表情をしていた。
どうやら櫻子もこうして手を繋ぐことには慣れていないらしい。けれど私の代わりに勇気を出してくれたのだろう。バレンタインデーにデートをする二人というTPOをわきまえて。
「ずんずん歩いちゃってるけど……こっちでいいの?」
「あ、ええ。合ってますわよ」
「ん」
それからはあまり言葉を交わさずに歩いた。
片腕を包む私の手の強弱、櫻子との身体の密着具合、交わるとも交わらない視線……その些細なやりとりだけで、私たちにとっては精一杯だった。
でも今までで一番、櫻子を近くに思えた。
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