4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:12:53.62 ID:rVNZ4GiQo
〜
この高校へは電車で通っている。
入学当初は新鮮だった電車通学も、もう一年が経とうとする今ではすっかり慣れてしまい、手頃に空いている席は無いものかとそれしか気にならなくなってしまった。
いつもより少し早い時間の帰り道、まだそこまで学生の多くない電車で運良く座れた私は、一息ついてから友達から借りた読みかけの推理小説を取り出した。「読んだら感想聞かせてね」――推理物は自分も好きだし、暇を見つけては読み進めるのが今の楽しみだ。
しおりの挟んであるページを開き、どこまで読んだかを確認する。目当てを見つけ、さて読もうと目を走らせようとして、ふと視界の端にちらつく乗客たちに目が移った。
何気なく車内を見渡してみる。席はほとんど埋まっており、立っている人はまばら。この時間帯は大人よりも制服を着た学生の方が多い。私の他に乗っている学生たちには、皆それぞれの色があった。
友人と大声で話し合う子や、小声で笑いあう子。大きな部活のバッグを持っている子。友人らしき人と隣同士に座っているが、携帯の画面に夢中な子。イヤホンで音楽を聴きながら、うだるように寝ている子。
あの子は……櫻子は、どんな高校生になっているのだろうか……様々な学生たちを見ていて、そんなことをふと考えてしまった。別々の高校に進んでからというもの、私たちが会う機会は急激に少なくなっていった。
アルバイトをしていると以前少しだけ聞いたことがある。まだ続けているのだろうか。アルバイト先は何故かはぐらかされて教えてもらえなかった。
櫻子は家から自転車で通える高校に進んだ。なので電車通学のときに同じ電車で偶然会うということはない。通学時間にも差があるため、家を出るタイミングも少しズレている。
こんなにも会えなくなるものなのか……入学後しばらくして、その現実をひしひしと感じた私はショックだった。隣の家に櫻子はいるはずなのに、どうしてこんなにも離れてしまうものなのか。
「櫻子……」
小説の文字から焦点を外し、私は昼前と同じように中学時代の櫻子を思い返した。あの子はきっと私よりもショックを受けていない気がする。だってあの子は今の会えない現実を、中学生の時に既に予想していたのだろうから。
「ごめんね、向日葵」――あの時の言葉を私は妙に忘れられなかった。
櫻子が謝っていたのは、当時予想した今のこの現実に対してのものなのではないか。
一緒の高校にいけなくて、ごめんね。向日葵は私のためにいろいろしてくれたのに、それでも届かなくて、ごめんね。色々な “ごめん” の形が思い浮かぶ。
きっと櫻子はあの受験期の夏に考え込んだに違いない。違う高校に進んで離れ離れになってしまう未来を、しかしそれでも私を希望する学校に進学させるため、勉強の邪魔にならないように身を引こうと。
その全ての現実に対して、「ごめん」と――
62Res/95.49 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。