過去ログ - 「Close to …side.Y」(オリジナルSS)
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:00:41.38 ID:t+SnPtR2o
オリジナルの学生の恋愛小説です。
もしよければ、最後までお付き合い下さい。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:02:09.49 ID:t+SnPtR2o
 気がつけば、目で追っている。姿が見えなくなっても、勝手に続きを想像してしまう。
 その隣に、自分を並べてみたりして、少し恥ずかしいような気持ちになる。

 ノートにぐしゃぐしゃと名前を書き殴って、それは黒板の文字を写しているわけじゃないのに、
 人から見ればきっと私は真面目な学生。
以下略



3:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:02:41.82 ID:t+SnPtR2o
 ちら、と見た一橋綱吉くんの背中は、あんまり頼りがいはなさそうだ。
 一橋くんの席は私の席からずいぶん離れている。 学期が始まってすぐは、席順は番号で決まる。
 彼はア行で、私はハ行だから、これはもうずいぶんな離れようだ。
 早く席替えがあればいいのに。ふっと、ため息が出る。


4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:03:29.23 ID:t+SnPtR2o
 彼とまともに話したのは、たぶん、高校一年のときの一度きりだけ。
 その頃、名門の私立高校の入試を失敗して、滑り止めの公立高校に
 ――つまり今の、一橋くんのいる高校に――入学した私は、腐っていた。
 別に希望の高校に入れなかったことが不満だったわけじゃない。
 それよりは落第以来、目に見えて態度を変えた両親とか、不慣れな家事とか、そういうことが理由だった。
以下略



5:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:04:06.30 ID:t+SnPtR2o
 中学からの貯金で学業面は心配なかったので、教師からうるさく言われることはなかったし、
 浮いていること自体はさほど気にするようなことでもない。
 ただ、居眠りしたときなんかは、起こしてくれる人がいないというのは、少し心細い。

 私は、ある授業の最中に寝てしまった。
以下略



6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:04:39.69 ID:t+SnPtR2o
 彼を見上げると、彼は少し照れくさそうに頬をかいた。
 あんまりよく眠っていたから、とか、なんとか言っていたと思う。
 私は彼をジロジロ伺いながら、彼の名前が何だったか思い巡らせていた。
 私がやっと「一橋綱吉くん」と口にすると、彼はおどけたように「箱崎八重さん」と言った。
 それから、彼は人の良さそうな笑みを浮かべて「居眠りなんて意外だな」と言った。
以下略



7:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:06:15.74 ID:t+SnPtR2o
 私は鞄を取って立ち上がると、挨拶もそこそこに教室を出た。
 心配とは裏腹に、何日経っても私に対する噂が広まる様子はなかった。

 一橋くんは目立つタイプではないけれど、よく男友達と談笑しているのを見かける。
 あの年頃の男子というのは、見たこと聞いたことをやたらに誇張して(特に女子が絡むと)話すものだと思っていただけに、彼の口の堅さは意外だった。
以下略



8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:07:22.92 ID:t+SnPtR2o
 のろのろと続くホームルームには教室中の誰もが、教師でさえうんざりしていた。
 一橋くんはこっくりこっくりと船を漕いでいる。私の席からもはっきり見えた。つい、くすりと笑ってしまう。
 ようやくホームルームが終わって、みんなガタガタと席を立つ。
 その音で一橋くんは目を覚まして、一足で遅れた形で荷物をまとめ、席を立った。私は、彼を追った
 人の流れて行く廊下の途中で彼と肩を並べると、私は声をかけた。
以下略



9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:08:51.35 ID:t+SnPtR2o
 一つ、二つと、会話を交しているうちに、昇降口が見えてきた。
 お互い、下駄箱から靴を取って、履き替える。こういうときに限って靴紐が変に絡まるものだ。
 もたもたと履き替えている傍で、一橋くんは足を止めて待っていてくれた。
 私はなにも言っていないけれど、一緒に帰ってくれるんだろうな。
 そう思うと身体の内側がなんだかピリピリくすぐったいし、指先が一層不器用になる。
以下略



10:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:10:52.11 ID:t+SnPtR2o
 人の流れを泳ぎながら、私は次に言うべき言葉を探していた。
 こうして、ちゃんと話すのは一年ぶりくらいだね。
 そう言いかけて、やめる。私のほうだけだ、そんなこと気にしてるの。

 もっと無難な話題、無難な話題を。
以下略



11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:11:17.34 ID:t+SnPtR2o
 一橋くんのほうを振り返ると、小さな陰が弾丸のごとく彼にタックルを決めていた。
 しかしちゃんと加減が効いていたらしい、一橋くんは少しよろけながらも、しっかりと女の子を抱きとめていた。

「隠れて見えなかったよー!」

以下略



12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:12:05.76 ID:t+SnPtR2o
「恋人?」

 最悪の想定を尋ねてみる。二人は顔を見合わせて、きょとんとした。

「一緒に帰ってたの?」
以下略



13:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:13:46.42 ID:t+SnPtR2o
「そう、さっき、偶然ね」

 私はそう言って、くいっと口角を上げてみるが、きっと目までは笑ってないんだろう。
 奈那と呼ばれた少女は、それですべて片付いたと言わんばかりに一橋くんを見上げた。

以下略



14:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:17:06.68 ID:t+SnPtR2o
 ――――


 私、待ってるから。
 待つから。
以下略



15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:20:10.45 ID:t+SnPtR2o
 ――――

 爪を噛む癖が、また出てきた。ナナとかいう少女のせいだ。
 あれからたびたび、一橋くんの傍をちょこまかしているのを見かける。
 妹かなにかと思いたかったけれど、彼女が一橋くんに向けている行為は家族へのそれとは微妙に違うようだった。


16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:20:50.36 ID:t+SnPtR2o
「一橋くん、ちょっといい?」

 放課のチャイムと同時に席を立って、声をかけた。
 さっきの授業中に何度も言葉を考えていただけあって、口はごくスムーズに稼働した。

以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:22:34.70 ID:t+SnPtR2o
「今日の授業で、一橋くん、詰まってたでしょう。私も、実はあそこ苦手だから……一緒に勉強したらいいかと思って」

「詰まってたところ? ってどこだっけ……」

「もう、ここよ」
以下略



18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:23:00.87 ID:t+SnPtR2o
「ね、じゃあ、行きましょう?」

 私がそう言うと、一橋くんは鞄にノートや教科書を詰め、席を立った。


19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:23:32.67 ID:t+SnPtR2o
 図書室はさほど混んでいなかった。空いている勉強机に二人で並んで座った。
 試験前ということもあるし、混んでいたら喫茶店か、なんなら私の家に招待しようかと考えていたのだけれど。
 場所は図書室と色気がないし、空いているなりに人もいるけれど、ノートを広げて二人同じ問題を解くのはなんとも言えず甘やかな時間だった。
 バカなクラスメイトが、図書室にいなければいいけど。


20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:24:07.64 ID:t+SnPtR2o
 一橋くんが詰まっていた箇所を丁寧に噛み砕いて説明する。
 彼はバツが悪そうに笑って、頭をかいた。

「苦手って言ったけど、箱崎さん、わかりやすく教えられるくらいに理解してるじゃないか」

以下略



21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/19(土) 22:26:36.34 ID:t+SnPtR2o
 私はとりあえず、二人が恋人として付き合ってないということにホッとした。
 それに、奈那のほうはともかく、一橋くんは彼女に対して「妹のような幼馴染」以上の感情を持っていないらしいこともわかった。
 私がちょっと身体を寄せたり、偶然を装って顔を近づけたりすると、
 少し身を引くところを見ても、よっぽど私のほうが女として意識されているみたいで嬉しい。

以下略



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