過去ログ - 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2―
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983: ◆P2J2qxwRPm2A[saga]
2016/02/25(木) 23:33:32.60 ID:/mUgx/Fs0
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 視界にノイズが走る。ザラザラとした意識の中に見えるその姿は、懐かしい記憶にある復讐への心が芽生えた頃にまで遡っていた。
 ガロンの隠し子だという娘の世話係という話が舞い込んできた時、すでにギュンターは抜け殻のような人間だった。拘束されていたことよりも、愛する者を守れなかったこと、その不甲斐無さに押しつぶされていた。
 だから、その子の世話係というのを聞いた時は虫唾が走った。虫唾が走り、同時に心に悪い思考が沸き起こる。ガロンという存在に一矢報いることができるかもしれないと。そんなことを考えた。
 その命令にギュンターはすぐに従った。そして出会ったのが……彼女だった。

「ギュンターさん……」
(カムイ様……)

 初めて会った時の彼女は、ガロンにすべてを奪われた時のギュンターと何も変わらなかった。なんでここにいるのか、どうして生きているのか、それすらも理解できないし、考える気にもなれない、まるで抜け殻のようであった。
 ギュンターはガロンのご機嫌取りと並列するように、しばらくの間は言われたとおりにしてきた。自分の不幸はガロンの所為だと口には言わなかったが、誰の命令で動いているかを仄めかすようなことはしていた。鞭で叩くことは日常的で殴ることさえあった。
 それでもカムイは言うことを聞いたりしなかった。痛がりもしなかった。ギュンターに興味を示すこともなかった。そんな日々が続いたある日、ガロンに鞭を渡された時、ガロンに媚を売ることをやめた。
 それがギュンターにとって復讐する心を薄れさせた最初の出来事だったのかもしれない。鞭を無理やり丸めて作ったボール、それを投げ合う日々。カムイは言葉よりもキャッチボールでの意思疎通が好きで、ギュンターもそれに興じていた。

『………』
『………』

 二人の間をボールが静かに行き来する。カムイもギュンターも声に出さずにいるが、それで意思疎通はできていた。
 元気かと投げれば、元気だよとボールが返ってくる。何かしたいことはないかと投げれば、これだけで十分だよと返ってくる。芯がしっかりしている、子供なのにどこか神聖なものをギュンターは感じていた。
 そして気づけば心のうちにあった復讐を望む心は次第に息を潜める。皮肉なことだった、ギュンターの復讐という願いは、利用しようとしていたカムイによって抑え込まれてしまったのだから、でもそれで別に構わなかったのだ。

(本当にカムイ様は不思議な御方だ……)

 愛する者をすべて失ってもなお、生きる理由を見つけるなら復讐だけしかないと考えていたギュンターにとってカムイとの生活はどこか新鮮だった。互いが何も持っていなかったからかもしれない。でもそれだけじゃなく、心を開き始めたころから甘えてくれるカムイに愛しさに似たものさえ感じていた。
 復讐に身を窶すよりも、その生き方はどこか心地良かった。そして、復讐こそが死んだ者たちへの弔いになると……信じていた自分がいたことを今になって知った。

(……結局、それで満たされるのは私だけだ。死んだ者たちが何を望むのかなど、わかるわけもないことだというのにな)


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