過去ログ - 速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
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11:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 21:07:42.67 ID:08xPns3X0


夜風が木々を揺らす。

そこへ、何かが草木の中で動く異音が鳴った。

「誰だっ」

瀬戸口は神経を尖らせたが、現れたのは、赤いちゃんちゃんこを着た、デブ猫だった。

「ブータ……! 来てたのか」

再会を懐かしもうとした瀬戸口に、しかしブータは厳しい口調で言った。

(キッドよ。此度の戦い、いよいよもっておぬしの力が必要になるぞ)

「分かってるさ。最後まで、俺にやれる限りのことはやる」

(そうではない)

強い視線がまっすぐ突き刺す。

(山かと見紛う巨大な悪しき夢が、その背に各地の幻獣を乗せて、この地へ渡ってくる。おそらく、今この世界に存在するほとんどの幻獣が集結するであろう)

「なんだって……」

青ざめ、瀬戸口も表情を引き締めた。

「また、南王のようなやつが現れたのか」

(いいや、王ではなかろう。巨大ではあるが、知性は低く、数も多い。海を渡る悪しき夢の船といったところか)

「海の幻獣か……」

イルカやクジラ、シャチといった海に住まう動物神からの情報だろう。
これまでも必死に戦ってくれていたが、さすがに止めきれる相手ではないと見える。

(これが最後の戦いとなる。祇園童子よ)

「俺は瀬戸口隆之だ。さっきもキッドとか言ってたな。変な名前で呼ぶのはよせ」

(忘れたふりか。それとも)

「やめろと言ってる。俺は……今の俺にできることをするだけだ」

だがそこで、がさがさともう一つ音が鳴った。
身構える瀬戸口。
が、飛び出したひょろ長い影は目の前で勢いよく、派手にすっ転んだ。

「あぁー! いたぁい! 誰です! こんなところにバナナの皮をぉ!」

そしてすっくと起き上がり、にやりと笑う。

「お、お前……」

唖然とする瀬戸口に、岩田は白衣についた葉っぱを払い落としながら言う。

「フフフ……あなたにできること。例え鬼に戻れなくとも、まだありますよ」

「なにっ」

岩田裕は重傷を負い、病院へと運ばれたはずだ。
参謀の方とてこんなところにいるわけがない。

「お前は、誰だ……!」

「フフフ、どうでもいいじゃありませんか。今はそんなこと」

幽霊か?
しかし足はある。足がなければ、得意のバナナですべって転ぶギャグはできない。

「ついてきてください。カモーン瀬戸口」

「……」

くいくいと、人差し指で手招きする。

何者であろうと、放っておくわけにもいかない。
瀬戸口は岩田の後を、歩きだした。





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