過去ログ - 速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
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12:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 21:09:14.49 ID:08xPns3X0


最後の一滴まで、涙を絞り出し、真っ赤に泣きはらした顔を、カーミラは無造作に腕でぐいとぬぐった。

「決めたわ。あなたたちは、わたしに精神操作され、敵に突撃する」

真っ直ぐに、舞を見つめて言う。
涙の跡が拭ききれていないが、凛として美しい顔だ。

「後方にいる、海兵、自衛軍も。オレンジ計画ってのが発動したら、わたしと青スキュラで対処するわ」

「全ての責任を背負い込む気か。しかしそれでは、例え勝てたとしても」

「分かってる」

阿蘇、阿蘇を守る元学兵とカーミラ。それを守って共闘することを、全てカーミラのせいにしてしまえば、日本が共生派として地図から抹消されずに済む可能性もある。
だがそれは、首相との和平条約の無効化と、今後の和平の可能性を、完全に潰えさせることだ。
幻獣と人類は、いよいよもってどちらかが滅ぶまで戦うこととなる。

「素子に言われて、気がついたの。わたしたちは最後の希望とすがって、この世界に辿り着いた。けれど……待っていたのは、殺すか、殺されるかの戦いだった」

息を吐き、吸い込み、空を見上げた。

黒い月が、青い月と重なり、ぽっかり浮かんでいる。

「生存競争だから。戦争だから。そう割り切ってきたけれど…………それはわたしたちの都合……。あなたたち、こちらの世界の人々にとっては、わたしたちは、後から来た、侵略者に過ぎない。例え、平和的に、移民として訪れていたとしても」

もし、門を越え、幻獣らが人間の姿でこの世界に訪れていたとしても。
これまで出現した幻獣の数だけの人間を、住まわせる余裕が、この世界にあるか。
最初から和平が成り立てば、この世界の人類の数も減っていないということ。
エネルギーも、食料も、足りるわけがない。

そして何より、後から来た移民が、対等かそれ以上の数を持って移住してきたら。
元々の人類にとっては、脅威以外の何者でもないだろう。

いずれ、差別と、争い。出身世界が異なる人類同士での戦争がはじまるだけだ。

「だから、わたしは責任を負わなければならない。これまで幻獣が殺してきた、この世界の、多くの人々の命に対して。ゴブリンがなぶり、晒し、辱めた命。ゴルゴーン、ミノタウロスに潰され、強酸に焼かれ、溶かされた命。ヒトウバンに生きたまま埋め込まれた生首、ワイトに寄生された遺体。わたしの爆破テロで死んだ人達。知性体に精神操作された人達。……その全ての命に」

「……分かった」

舞は、ゆっくりと頷いた。

「なれど我らは、そなたを、そなたらを見捨てるつもりはない」

「そうだよね。責任って言うなら、ちゃんと生きてとらなくちゃ。生きて、向こうの世界の人達と、こっちの世界の人達が、いつか和解できるように、死ぬまで頑張ってもらわないと」

いつのまにか普段のにこにこ顔で、厚志がのんびりと言った。

「厳しいこと言うのね。最後まで」

「最後なんかじゃないよ」

微笑む厚志の周りに、金色の光が漂って見えた。

この世界では忘れ去られたはずの、淡い希望の光。

「本当の戦いは、これからさ」





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