過去ログ - 速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
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37:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 21:33:12.51 ID:08xPns3X0

戦意を持って出てくる敵は全てが殺し尽され、最後、盾となっていた大型幻獣に一斉砲撃を浴びせ、消滅させる。
するとそこには、一万、二万という小型幻獣の群れ、そして百そこらのデーモン、アンフィスが残っていた。
それだけの数がいながら、幻獣らに戦意はない。
傷を負った者も多く、かばい合うようにして、へたりこんだままだ。

「みんな、聞いて欲しい」

少女の声に、幻獣らは赤い瞳を向けた。
ミノタウロスの肩に乗った、触覚のように髪をぴょんと束ねた少女。

ミノタウロスは重装甲と並んで、幻獣らの前に出た。
さらにぞろぞろと、他のミノタウロスやキメラ、ゴブリンが、人型戦車らと共に囲んでくる。その数は千と数百。

「わたしたちは、望遠鏡破壊任務を負った部隊。……噂、聞いたことない? 幻獣を裏切って人類側についた愚かなやつらって」

赤い瞳たちが互いを見合わせ、ざわつく。
物言わぬ幻獣の人間くさい動作が、なんだかおかしかった。

「まぁ、カーミラの和平に比べたらちっちゃいことだけどさ。わたしたち、和解したんだ。うん、まぁ、その」

少女は、少しだけ言いづらそうに、顔を赤らめる。
栄光号重装甲から糸目の少年が出てきて、少女に視線をやった。
少女も視線を合わせ「えへへ」と笑う。

「つまり…………わたしたち、子供産むの!」

「ちょっと待ってくれるかな」

真っ赤になって叫んだ少女と、冷静に、しかしやはり赤くなりながら、少年が止めた。
上空から降りてきた知性体が、糸目に対してうなずく。
幻獣に対して同調能力のない少年の、通訳を買って出てくれるらしい。

「あー、今のは言葉の綾で。……出産だとか結婚だとかは置いといて、とにかく僕らは仲良くなったんだよ、うん。それで、だね」

言葉を探すように、赤い目を見渡す。
そのどれもが驚愕したように、見開かれているように見える。

当然か。敵対する、向こうにとってはこちらが化物だ。化物、それも死神と、結ばれる幻獣が存在するなど。

「僕らが橋渡しになって、父島を攻めていた幻獣とは和解したんだ。それで……どうだろう。君たちも、僕らと一緒に」

「この世界に、新しい楽園を作ろう。ね!」

少女は目を、宝石のような赤い目を輝かせて言った。

父島を襲った幻獣の大攻勢。それがパタリとやんだ理由は、世間には全く知られていない。さらに軍にも事情を知っている者などほとんどいない。
この部隊の人間達だけが、この驚くべきロミオとジュリエットを知っていた。

「詳しい和解の条件は、カーミラの元へ移動してからにしよう。では、ついてきてくれるかな」

そう言って、少年はまた操縦席に入ると、無防備に背を向けて歩き出した。

戸惑い、ためらいながらも、一体、また一体とそれに追従しだす幻獣。
人型戦車と共にいるミノタウロスらに促され、ついにはそこにいた全ての幻獣が引き連れられる。
激戦が繰り広げられた草千里ヶ浜はついに、敵も味方も、からっぽになった。





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