過去ログ - 速水厚志「ハッピーエンドを取り戻す」
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9:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 21:03:17.40 ID:08xPns3X0


殺せなかった。

原は補給車の側でがくりと膝をついた。
カッターが手から落ちる。

「私のばか……」

カーミラを殺して、5121がここに残る理由を奪ってやるつもりだった。
それで自分がどんなに悪者になろうとも。
しかし、爆破テロと精神操作でたくさんの人の命を奪った幻獣王は、今やただの、泣きじゃくる少女だった。

どうせ、ハンスや厚志の前で、カッターでの暗殺なんて成功しないかもしれない。
それでも、その覚悟でいったのだ。それなのに――

「……音?」

原は、ふと顔を上げた。
聞きなれた、レーザーメスの音がする。人工筋肉の損傷した部分を削ぎ落す、修理の音。
それは大破した一番機の方から。

知らず、そちらへと足が向く。

「新井木さん?」

一番機整備士の新井木勇美が、横たわった士魂号の足へかじりつくように修理している。
素早く、まだ使える部分を探し、つぎはぎにして直していく。

「なにをしているの」

「岩田も中村もいないし、僕がこの子を直してあげないとね、って」

新井木は振り向かず、手を動かしながら言った。

「まさか、ずっと?」

えへへっと鼻をこすり、またレーザーメスをあてる。

「どうせ、整備班は明日いっぱいで撤収でしょ。壬生屋さんはいないけど、三番機がダメになったら、速水くんあたり乗るかもしれないし。できることは、やっておきたいんだ」

「装甲の予備パーツもないじゃない。軽装甲仕様で仕上げる気? それに武装……ああもう! 仕方ない子ね」

そう言うと、原は近くに置いてあった工具箱をひったくり、肩に担いだ。

「あとどこよ、直し終わってないとこは。カメラセンサーは? 全損してた手首は交換したの? それから」

新井木が、目をぱちくりさせて原を見る。

「なによ。この整備の神様、5121の女神様が手を貸してあげようって言うのよ? 朝には倍の性能にしてやるわ」

「あははは! そりゃ頼もしいや」

こうなったら、もう考えても仕方ない。
今はただ、頭をからっぽにして手を動かす。一心不乱、新井木と競うように。
これが、最後の仕事かもしれないのだから。
勝っても、負けても。





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