19: ◆MOU5m1dgOuYK[saga]
2015/11/05(木) 22:17:56.74 ID:/9pLGy/20
病院に着き、待合室に飛び込むと、凛のご両親、そしてお世話になっているトレーナーさんが目に入った。
まずはご両親の方と話すべきだと思い、声をかける。
「お父様、お母様、私、凛さんのプロデューサーをさせて頂いているものです」
「プロデューサーさんですか。凛がお世話になっております。凛は今、緊急手術中です」
何故、こんなにも落ち着いているのだろうと思った。
普通なら、もっと取り乱してしまうものだと思ったが。
「あぁ、今、嫌に冷静だな、って思いました? すみません、あまりのショックに言葉が出ず・・・・・・」
言われて気付いた。
当然だと。
最愛の娘だろう。
一人娘が生きるか死ぬかなのだ、そこで饒舌でいれるほうがどうかしている。
「いえ、そんなことは・・・・・・。この度は、私のせいで御宅の娘さんを事故に合わせてしまい、申し訳ございませんでした」
そう言って、深く深く頭を下げる。
とにかく今は謝罪が先だ。
「いえ、悪いのはプロデューサーさんではありませんよ。顔を上げてください」
「で、でも・・・・・・」
そこで言葉が途切れてしまう。
そうして沈黙がやってきた。
なんと言えばいいのかわからない。
そんな沈黙を破ったのは、凛のお母さんだった。
「凛は、アイドルを凄く楽しんでいるように見えました。プロデューサーさんはいい人で、仲間もみんな優しいいい子で、毎日が楽しそうでした。中学の頃はあの性格故に余り友達が出来ず、毎日があまり楽しそうじゃなかったのに、アイドルを始めて、あんなにいい顔をするようになって、すごく笑うようにもなりました。食事の時もプロデューサーさん、あなたのお話ばかりでした。今日プロデューサーさんがミスをしただとか、今日はこんなにいいことがあったとか、今までの凛じゃ考えられません。それなのに、事故に遭うなんて・・・・・・」
そう言って涙をこぼした。
すると、それを聞いていたトレーナーさんが口を開いた。
「凛ちゃんはレッスンの休憩時間で、いつもプロデューサーさんや友達のみんなの話を聞かせてくれました。それに今日だって、苦手だったステップが出来るようになって、私が褒めたんです。そうしたら凛ちゃん、プロデューサー喜んでくれるかな? なんて、凄く嬉しそうに言っていたんですよ」
「そう、ですか・・・・・・」
今はもう、涙が溢れないようにするので精一杯だった。
それからは話すことも無く、長い、果てしなく長い時間が過ぎた。
もう夕日も沈んできて、時間帯で言うならば夜に差し掛かったときだった。
「先生・・・・・・」
凛のお父さんがそう口にした。
恐らく凛の手術を担当したであろう医師の先生だろう。
そして口にした言葉は、あまりにも簡潔で、最悪の事態だと知るには分かり易すぎた。
「一応、手術は成功しました。しかし、脳に大きなダメージがあり、いつ目を覚ますか分かりません。むしろ、もうこのまま目を覚まさない可能性のほうが遥かに高いでしょう」
目の前が真っ暗になる。
もう凛と一緒に仕事をするのはおろか、話すことさえ出来ない。
その事実が俺にのしかかる。
余りにも重く、絶望的すぎる宣告だ。
気付くと俺は病院を飛び出していた。
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