71: ◆eO0MHGE6wPTj[saga]
2015/11/18(水) 00:41:52.58 ID:opLhvimn0
「いえ、俺が言わなかったのが悪いですし、大丈夫ですよ」
「話を続けるが、そこで当の2人に仕事をこれ以降与えるつもりは無いがどうするか、と聞いたら、自主退職を申し出てきた。なんにせよ、私はそういった
卑怯で卑劣な手を使う人間が大嫌いでな。許せなかったんだ」
「そう、ですか」
「それでもう1つなんだが、これは、本当に申し訳ないと思っているのだが、島村卯月と、本田未央のプロデュースを頼めないだろうか? もちろん無理にと
は言わない。断っても君は何も悪くない。しかし、彼女達は腐っても敏腕だったあのプロデューサーのおかげで今あれだけ登りつめている。まだまだトップア
イドルまでの道のりは長いが、それでも夢の見れる場所まで来ているんだ。他に出来るプロデューサーがいないんだ。出来れば私は、彼女達に夢を見させてや
りたい、頼む」
社長がそう言った。
つまり社長は会社としての利益より、人として彼ら2人を実質クビにしたのだろう。
でなければこれほど人気のあるアイドルのプロデューサーを残しておかないわけが無い。
だが、やはり怖かった。
ここまで人気のある彼女達が、俺のせいで一気に落ちこぼれるかもしれない。
それが怖かった。
それでも、俺のために利益を投げ打った社長の頼みだ。
受けたいという気持ちもかすかにあった。
「少し、考えさせてください」
結局、それが答えだった。
この場で即決することが出来なかった。
「あぁ、もちろん構わない。それと、渋谷の入院してる病院には顔を出したのか?」
「いや、まだ」
「君は馬鹿か。気持ちは分かる、とても辛いのも分かる、だが、ご両親だけでなく、君もいてあげることが渋谷の支えになるんじゃないのか? 君は渋谷に支
えられたことは無かったのか?」
「それは……」
逃げていた。
担当アイドルを上手く育てられず、他の社員には馬鹿にされ、いいように扱われ、挙句の果ては一番大切な担当アイドルが事故に遭うなんて。
それを俺は悲劇のヒロイン気取りで、この現実から逃げていたんだ。
「ちなみにだが、今日部長は仕事が無く、この後たまたま渋谷の様子を見に行くらしいぞ。な?」
「え? いや。あ、いやその通りですよ。君ももちろん来るよな?」
涙が出そうになった。
何故ここまで優しくしてくれるのだろうか。
会社にたいした利益をもたらしていない俺に、何故ここまで優しくしてくれるのだろうか。
他人の不幸をいい人気取りで慰めているのでは断じてない。
俺にもそれは理解できた。
「はい、もちろんです」
「そうか、じゃあ早速行こうか」
そういってオフィスを出た。
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