過去ログ - 屋上に昇って
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982:名無しNIPPER[saga]
2016/04/02(土) 00:54:26.23 ID:PCQym4Teo

 同じ出来事について語っているはずなのに、それぞれに言い分が食い違う。

 そんな話を読んだことがある。

 そうだ……"藪の中"だ。

 そこにいたわけでもなければ、彼らを知っているわけでもない俺に、どうして本当のことが分かるだろう。
 本当のことなんて、分からない。探していたのは腕時計ではなかったのかもしれない。
 嵯峨野連理が、別の腕時計を“それ”だと思い込んでいるのかもしれない。

 本当のことなんて、俺には分からない。

 嵯峨野連理はただ、どうすればいいか分からないというように、女物の腕時計を眺めていた。

 その苦しげな表情に、どうしてか俺は悲しくなる。
 何を悲しく思っているのかも分からないくらい、悲しくなる。

 そこで、扉が開く音がして、

 振り返ると、嘉山孝之が立っていた。




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