1:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:47:00.50 ID:0Zh7X+jI0
椎名法子ちゃんがドーナツをもぐもぐやったりやらなかったりするやつです。
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:47:42.00 ID:0Zh7X+jI0
ぱたぱた。
たとえば、新作のドーナツがとってもおいしかった。たとえば、お仕事がうまくいった。
そんなとき、あたしは踵をぱたぱた鳴らすくせがあるみたいだった。
3:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:48:23.77 ID:0Zh7X+jI0
「もしかして。プロデューサー、ドーナツに嫉妬してるの?」
「そんなこと言うヤツには今度から持ってくるドーナツ半分にするよ」
4:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:49:27.06 ID:0Zh7X+jI0
プロデューサーと出会ったのは、確か春先、あたしが中学生になってすぐのころだ。
街角で揚げたてのドーナツを買って、抱えたドーナツの匂いが嬉しくって。
少しだけステップを踏んで歩いていたら、急に冴えないスーツの人に声をかけられたんだった。
5:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:49:54.42 ID:0Zh7X+jI0
初めての仕事はドーナツと関係がなくて、プロデューサーを困らせるようなことを言っちゃった。
プロデューサーのおかげでなんとか上手くいって、そのあとはたくさん撫でられた。
ドーナツも一緒に食べた。
6:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:50:31.42 ID:0Zh7X+jI0
プロデューサーの車に乗って、事務所に帰ってきた。
事務所は珍しく人が出払っていて、静かだ。
プロデューサーはあたしをここまで送ってから、ちょっとした仕事に向かったみたい。
7:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:50:59.64 ID:0Zh7X+jI0
あぁ、外はもう冬だなぁ。
あったかいココアと、チョコレートのドーナツが美味しい季節だなぁ。
窓から見えるプラタナスの木はすっかり裸になっちゃった。
8:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:51:29.46 ID:0Zh7X+jI0
がちゃり、と静かにドアノブが回って、帰ってきたのはゆかりちゃんだった。
「ただいま戻りました。あら、法子ちゃん一人ですか?」
9:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:52:39.86 ID:0Zh7X+jI0
「プロデューサーさんと、相変わらず仲が良いんですね」
「ずっと一緒だもん〜。ゆかりちゃんこそ、そっちのプロデューサーと仲良しなんでしょ?」
10:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:53:21.68 ID:0Zh7X+jI0
木枯らしが窓を少し叩いた。葉っぱが舞っているのも見える。
事務所のストーブ、そういえば点けてなかった。
11:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:53:58.11 ID:0Zh7X+jI0
「そういえばさ、なんであたしが良いことあったってわかったの?」
「ふふっ。法子ちゃん、またぱたぱたしてたので。良いことがあったときの癖、なんですよね?」
12:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:54:52.39 ID:0Zh7X+jI0
二人分のお皿とココアをそれぞれテーブルに置いた。柔らかなソファーに体を埋めて、さぁドーナツを食べよう。
だれかと一緒に食べるドーナツはいつもより美味しいのだ。当社比三倍。
13:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:55:33.17 ID:0Zh7X+jI0
あたしにはよくわからなかった。
あたしがいつだって楽しいのはドーナツのおかげで、それに、一緒にいるみんなのおかげなのに。
14:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:56:19.05 ID:0Zh7X+jI0
ゆかりちゃんはこのあと程なくして帰ってしまって、また事務所に一人になった。
あの言葉は、ドーナツを食べたあとに紙袋に溜まった、黄色いチョコレートの粒みたいにあたしの中に残っている。
15:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:56:56.16 ID:0Zh7X+jI0
くたびれたカーキ色のコートをプロデューサーから剥ぎ取るようにして受けとって、ハンガーに掛けようとする。
もう、ドーナツの匂いはしないなぁ。
フレンチクルーラーみたいな色のコートからは、もうプロデューサーのにおいしかしなかった。
16:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:57:32.29 ID:0Zh7X+jI0
プロデューサーは自分のデスクに腰を下した。ギシ、と軋む音がする。
あたしはまたキッチンに向かって、今度はインスタントコーヒーの蓋を開けた。
17:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:58:03.09 ID:0Zh7X+jI0
自分の分のコーヒーも淹れて、プロデューサーのデスクで並んでドーナツを食べる。
備え付けの大人用の椅子はあたしには少しだけ大きくて、つま先がぺたぺたと事務所の床を叩いた。
18:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:58:57.17 ID:0Zh7X+jI0
「法子は、ドーナツのおかげでアイドルを始めたんだよな」
そうだよ。ドーナツのおいしさを広めるために、あたしはアイドルになったんだ。
19:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:00:19.73 ID:0Zh7X+jI0
プロデューサー、違うんだよ。
確かにあたしがアイドルを始めたのはドーナツのためだけど、でも今は、それだけじゃないんだよ。
一緒にアイドルするのが楽しくて、仕事終わり一緒に食べるドーナツが一番おいしいんだって思ったから。
20:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:00:59.06 ID:0Zh7X+jI0
「プロデューサーになったのに、最初は全然上手くいかなくってな。でも法子がアイドルになってから、いつもプロデューサーになって良かったって感じるよ」
「いつも?」
21:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:01:31.34 ID:0Zh7X+jI0
「あのね、プロデューサー」
そう言ってあたしは席を立った。プロデューサーはちょうど、ドーナツを食べようとしてるところだった。
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