10: ◆1UOAiS.xYWtC[sagesaga]
2015/12/20(日) 00:26:01.94 ID:OZ5mIP6Co
  
 しばし、朝食を済ませて城内を巡る。 
 思えば、これは初めての事だ。 
 かつての七日に始まって、季節の移ろいが人間界と同じとすれば、春頃にこの国へ来た。 
 そこから夏、秋と過ぎて冬の今、城にいる時はこれまで堕女神がいた。 
  
 しばらくの間、堕女神は傍にいない。 
 寂しさより、彼女の無事を願う心より、その意外さが今は強い。 
 彼女のいない間、この城ではどういう生活が送られるのか。 
 ちょっとした非日常の高揚感が、確かに湧きたっていたのだ。 
  
  
 朝食が腹に落ち着いた頃、書斎へとたどり着いた。 
 黒く艶やかな木製の扉を開くと、そこはやや小さく作られた部屋で、寝室より僅かに狭い。 
 城の内側にある、淫魔の国の全ての発行物と記録が収められた広大な書庫とは違い、 
 この書斎にはごく最近の書物と記録、報告書類が収められている。 
 ここに収められているのは、せいぜいが三年前までのものだ。 
 何かしようとするたびに大書庫へ出入りする手間を省くための、いわば暫定的な場でもある。 
  
 チェスを指すのならサロンも悪くは無いが、この書斎も捨てがたいものがある。 
 埃っぽくも落ち着いた静謐な空気、真新しい紙とインクの匂い、採光用の窓から差す、暖かな光。 
 思考を巡らせ、競わせるにはうってつけだ。 
  
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