25:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:53:45.74 ID:/p0Ll9udO
「あ……あなたは……」
僕はこの人とは絶対に初対面だ。
そんなことは最初から分かっていたし、振り向いた顔を見てもそう確信した。
しかし、僕はこの人の顔をよく知っている。
凍りつくように固まった僕に、その人は静かな声で告げる。
「その袋は、置いた方がいいんじゃないかな」
その声はジャムおじさんそっくりで、ジャムおじさんにはない凄みがあった。
僕はとぼとぼと小麦粉の袋をパン工場の隅に重ね、二人の方を見る。
相変わらずジャムおじさんは憂鬱そうな顔をして、向かいの男の人は苦笑いを浮かべていた。
「しかし、本当にそっくりなんですね」
ジャムおじさんはなにも答えなかった。
僕は部屋の重たい空気に耐えられず、なにかを話しかけようとして、明るい話題を必死に探して、そして黙りこんだ。
僕には、二人の間に入ることは出来ない。
なぜかそう思った。
「僕、パトロールの続きをしてきますね」
「アンパンマン!」
ジャムおじさんが僕を引き留めたけど、僕は外へと駆け出して空へ舞い上がった。
青い、空は青い、そして雲は白い、白い。
当たり前のことを何度も胸の中で呟いて、僕は当てもなく空を飛び続けた。
向こうから鳥の群れが飛んできて、僕を心配するような声で鳴いている。
なのに、僕はその声がうるさいと思った。
「ごめん、今僕はどうかしてるんだ。
だから、一人で飛ばせて」
けれど、鳥の群れは僕にぴったりくっついて、離れようとしなかった。
本当に申し訳ないと思ったけど、僕は思いっきりスピードを出して、鳥達から逃げた。
鳥の声が聞こえなくなって、きっともうそばにはいないのに、僕はスピードを緩めることが出来なかった。
「アンパンマン!どうしたんですか!」
そんな僕を引き留めるように、誰かの声が聞こえる。
それでも、僕は止まらなかったけど、その声の主は僕に追い付いて僕の腕を掴んだ。
「アンパンマン、そんな怖い顔をしてどうしたんです?
なにかあったんですか?」
目の前にいたのは、真剣な顔をしたしょくぱんまんだった。
僕は泣きそうな声で、しょくぱんまんに聞いた。
「僕は、怖い顔をしていたの?」
「え、ええ……。今まで見たことがないくらい、怖い顔でした」
その瞬間、僕の心のもやもやは真っ黒なナイフへ変わり、僕の胸へ突き刺さった。
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