26:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:55:17.95 ID:/p0Ll9udO
空中でぴくりとも動かない僕を見て、しょくぱんまんが優しく手を差しのべる。
「アンパンマン、しっかりして下さい。
少し、木陰で休みましょうか」
僕は素直に従って、しょくぱんまんと一緒に大きな木の下へ向かった。
僕はまっすぐその木へと飛んでいくことができた。
ショックを受けるぐらい、僕はしっかり飛んでいた。
「アンパンマン、なにがあったのか教えて下さい。
誰にも話しませんから」
「ありがとう。でも、なんでもないんだよ。
僕は大丈夫なんだ」
「アンパンマン……」
「ジャムおじさんは優しいし、バタコさんも優しいし、チーズといると楽しいし、街のみんなだって僕のことを好きでいてくれるし、僕は」
「アンパンマン、少し私の話を聞いてくれませんか」
僕の話を遮って、しょくぱんまんは立ち上がった。
そして、いつものように空を仰ぎ、左手を大きく空へと伸ばす。
「私はいつも綺麗なものに囲まれていました。
温かい太陽、静かな光をたたえる月、優しい香りを放つ小さな花、キラキラと輝く人々の笑顔。
そして私の白い輝きは、誰にも劣らなかった」
「しょくぱんまん……」
「しかし、私の曇りがない心に、ある汚いものが住むようになりました。
私はそれを追い出そうと必死になりました。
誰にも言えずに、私は一人で思い悩みました。
けれど、どうしても追い出すことは出来ずに、私はパン工場を飛び出してしまったのです。
ジャムおじさんやバタコさんに、私の汚さを見られなくなかった」
「そうだったの?」
「ええ、私は一人ぼっちになりました。
だけど、段々と私は思うようになったのです。
この世に、ただ綺麗なものなど存在しないと。
汚いものがあるから、人は綺麗なものを綺麗だと思えるんじゃないかと、私は自分に納得させました」
「それは……辛くないの?」
「いいえ。そう思えてからは、私はもっと自分を好きになりましたよ。
前よりも、太陽は温かく、みんなの笑顔はより輝きを増しました。
そして、それを守らなければいけないと、私は強く思ったのです」
「僕は……そんなふうには思えないかもしれないな」
弱気な言葉を口にする僕に、しょくぱんまんは懐かしそうに笑った。
きっと、しょくぱんまんも今の僕のようになっていたのかもしれない。
しょくぱんまんは、木陰に座り込む僕に手を伸ばした。
「さ、アンパンマン。少し空を散歩でもしましょう。
そして私に話したくなったら、なにがあったか教えて下さい」
しょくぱんまんの笑顔は、カレーパンマンの笑顔と同じように、強くてカッコよかった。
僕は彼が差し出した手を握ろうとした、その時だった。
「うわあっ!」
突然、しょくぱんまんが紫色の輪に縛り付けられて、遠くの地面に転がった。
はっと上を見上げると、ばいきんまんがUFOを操って、楽しそうな顔で笑っている。
「はっひふっへほー!」
「ばいきんまん!どうしてこんなことを!」
僕は必死に怒鳴ったが、本当はばいきんまんの顔を見て安心していた。
ばいきんまんはいつもと変わらずに、僕に拳を向けてくれたから。
けれど、ばいきんまんはその手で僕を殴ろうとはしなかった。
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