29:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 06:00:24.83 ID:/p0Ll9udO
「じゃあ、しばらくそこで大人しくしてるのだ」
ばいきんまんが再びスイッチを押すと、扉はゆっくりと閉まっていく。
そして、天井の方に電流が走ったかと思うと、その光は雷のように僕に降り注いだ。
僕は少し叫び声をあげたけど、痛みは感じなかった。
それどころか、清々しささえ感じていた。
「さぁ、アンパンマン。出てこい!」
扉の外から元気な声が響いて、ゆっくりと開く扉から僕は踏み出した。
すると、足の下の土は柔らかくへこみ、草のみずみずしい香りが辺りに立ち込めているのに気がついた。
風は太陽の穏やかな光を運び、鳥の歌い上げるような美しい声を聞いた。
「気分はどうだ?アンパンマン」
「僕……こんなに優しい気分になったの初めてだよ」
「へっ!?」
ばいきんまんは笑顔をひきつらせて叫んだ。
「なんだと!?ってことは失敗……いやいや成功したんだな。
よかったな、アンパンマン」
「うん、ありがとう。君のおかげだよ」
僕が手を差し出すと、ばいきんまんは悪いものを食べたような顔で僕の手を握った。
僕たちはしばらく握手をして、ばいきんまんがUFOで飛び立つまで、新鮮な森の空気に包まれていた。
紫色のUFOが遠くの空へ消えていき、僕はそれをぼんやり見つめて、ふっとしょくぱんまんの事を思い出した。
「いけない、しょくぱんまんを助けに行かなきゃ」
僕はそっと地面から舞い上がり、突き抜けるような青空へ飛んだ。
すると、青空ではさっきの鳥の群れが待っていて、僕の周りを心配そうに飛んでいた。
そんな鳥たちに、僕は微笑みかける。
「さっきはごめんね。僕はもう大丈夫だよ」
鳥たちはしばらく僕のそばを飛んでいたが、不安そうにピーッと鳴くと、どこかの空へと飛んでいった。
僕はそれを見送って、しょくぱんまんの倒れている森へと向かった。
しかし、そこには紫色のわっかが残されているだけで、しょくぱんまんはいなかった。
「あれ?しょくぱんまんは抜け出せたのかな?」
きっとそうなのだろう。
僕はしばらくわっかを見つめて、街へと向かうことにした。
街の人は僕を見ると、僕に手を振ってくれた。
僕もみんなに手を振り返し、困っている人を助け、みんなにありがとうと言われている内に、気がつくとお日様が沈みかけていた。
橙色の光は街を包み込み、山を染め上げて、キラキラと輝いていた。
「そろそろ、パン工場に帰ろうかな」
ぽそりと呟いた声が、遠い空へ吸い込まれて消えた。
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