過去ログ - 南条光「砂糖無しで、ミルクはいっぱい」
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6:名無しNIPPER[saga]
2016/02/21(日) 15:42:06.39 ID:vaXUSRZy0

「ほ、本当!? 見せてくれる!?」

 知りたいという腹の底からの本心を伝えると、ありすちゃんはまんざらでもない風に仕方ないですねと笑って、ディスプレイをこちらによこしてくれた。知識量を誇りたいから協力してくれる彼女は、何時だって頼りになる。

「駅前のお店?」

「はい。このカフェ、評判みたいですよ。創作ケーキとかで」

「噂を聞いたことはあるぞ。早くて安くて美味しいんだっけ?」

「ラーメン屋さんと勘違いしてませんか? とにかく、煮詰まってるなら新しい情報をインプットするべきかと」

「たしかに、アタシの中の知識だけじゃ、もう作れないだろうし……そうだな、明日、君は行くのか?」

「行けるなら行きたいけど……お仕事なんです。春一番対策のマージンが大きめだったり、そもそも距離的に寮に直帰しても真夜中になっちゃいますし、……Pさんは来れないし……」

「Pは関係無いんじゃないか?」

「か、関係なくなんかありません。だって、私たちのプロデューサーなんですよ?」

 「ならなおさら、お休みを取る日は楽しんでて欲しくないか?」と言おうかと思ったけど、押し問答になってしまいそうだからやめて、ホームページを確認した。一等地にでんと構えたお店らしく、サイトのレイアウト一つとってもおしゃれで清潔感があった。

 飾られてる北欧の木製玩具や、おそらくスズランをモチーフにした真っ白なコースターが可愛くて華やかなのは理解できたが、だからこそ遠い星のように縁遠い存在に感じられた。名付けるならシャレオツ星だ。

「こ、こういうお店って、高価なパソコンを持ち込んでハンナ……アーモンド? みたいな難しい本を片手にSNSで仲間がコミットでクリエイティブがプロ意識でナレッジがノマド? とか言ってる人向けのお店じゃないかなっ。アタシには相応しくないというか」

「一つ、このお店は会員制じゃないから、別に相応しくないとかどうとかありません。二つ、アーモンドじゃなくてアーレントです。面白いって思った本なら作者の名前を忘れないでください」

「む……文香さんに申し訳が立たないな。ところで、もしかして三つ目以降もある?」

「ええ。三つ、カタカナ使えば頭良く見えるって思ってるなら、それこそ馬鹿らしいですからね」

「アタシけちょんけちょんだな!?」

「四つ目。その、光さんだってアイドルなんですし、髪が長くて、静かにしてれば清楚寄りの見た目ですから、こういうお店が似合わないってことはないかと」

「い、言わんとすることはだいたいわかった。けど、こういうお店に似合うお洋服を持っていないというかだな」

「言い訳がましいですよ。いつもは服なんか着れればいいのスタンスなくせに。戦後何年経ったって思ってるんですか。どうしても気になるならおめかししてください」

 そう言いつつ、彼女はブラウザの新しいタブを立ち上げて近くの洋服屋について調べ始めていた。

 「自力でどうにかするから大丈夫」と言ってから、そういえば何故君はこのお店を調べたんだと尋ねた。ありすちゃんは「Pさんが気になってるみたいだったので」と頬を赤らめて答えた。彼女が誰を想っているかどうとかは、アタシのような唐変木でも知っている公然の秘密だ。

「聞いといてなんだけど……いいのか? そういうの、教えてもらって」

「光さんなら安全ですから」

 「アタシ以外の娘は危険みたいな物言いだな」と言ったら、「そうかもしれませんね」とあざけるように笑った。そのときふと見え隠れした、電源が落ちたテレビ色の瞳をおそらく一生忘れられないだろう。


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