過去ログ - ことり「ベストデザイン」
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2:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:08:02.92 ID:mEcRfjijo
 数か月分の小遣いと手伝いで得た駄賃を手に、少女は走っていた。
 息は切れ、足はもつれかけ。それでもその顔は爛々と輝き、疲労の色を見せていない。
 今日、少女は服を買う。そこらで売っているちゃちなものじゃない。
 少女のために作られ、少女のためだけにある服だ。
 それはまだ、どんなものになるかも決まっていない。これから決まるものだけれど。
以下略



3:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:08:28.87 ID:mEcRfjijo
「ぜんっぜん駄目。舐めてるの?」

 バン、とことりのデザイン案をまとめてある紙が机に叩きつけられる。
 スタンドライトが僅かに宙に浮き、ティーカップのお茶が机上を汚す。

以下略



4:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:09:23.47 ID:mEcRfjijo
「なにあれ」
「なんか、いやなことがあったみたい」

 一心不乱にチーズケーキを食すことりを見て、真姫はため息をついた。
 ホールケーキ……それもかつてアメリカのホテルで見たような大きいものだ。
以下略



5:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:09:53.90 ID:mEcRfjijo
 見返してやる。チーズケーキを平らげた後、そう決心する。
 確かに、あの講師のいうとおりだ。自分に服飾デザイナーの才能があるかどうかは、今はおいておく。
 ただ天狗になっていたのは認めなければならないだろう。自身のデザインに不満を持っていなかったわけではないし、自分はまだまだだとも思っている。
 それでもどこか驕りのような部分があるのは事実だ。
 であれば、やることは一つ。
以下略



6:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:10:20.35 ID:mEcRfjijo
「わたしはことりちゃんのデザインかわいいと思うよ?」
「穂乃果や私にとってそうでも、他の人から見たら違うかもしれないじゃない」

 そも、かわいいのとデザインとして優れているというのは別物だ。
 日本人女性の使うかわいいには万の意味がある。かわいいと良いがイコールで繋がるわけではないのだ。
以下略



7:名無しNIPPER[sage]
2016/03/12(土) 04:10:50.19 ID:mEcRfjijo
「それで、これが?」

 幾つかデザインをまとめ、そのなかでも会心の出来と呼べるものを講師に見せる。
 が、返ってきたのはため息のみ。講師は落胆の色を濃くしながらことりに顔を向ける。

以下略



8:名無しNIPPER
2016/03/12(土) 04:11:20.61 ID:mEcRfjijo
 どうにもならない苛立ちを床を踏みしめる力に変える。
 普段は小さな足音が少しずつ、着実に大きくなっていく。
 ことりは普段、苛立ちを覚えることはない。怒ることはあっても、長引くことはないのだ。
 だからこそ、どう発散すればいいのかわからない。八つ当たりに地面を蹴ってもどうにもならない。

以下略



9:名無しNIPPER
2016/03/12(土) 04:11:47.80 ID:mEcRfjijo
「……来ちゃった」

 何をする気にもなれず街をぶらぶらしていると、自然と足が向かってしまった。
 『Spell on you』。まじないをかける、転じて、魔法をかける。店名はそういう風になっていた。
 一つ深呼吸。古びた木製のドアを押せばギッと重い音が響く。
以下略



10:名無しNIPPER
2016/03/12(土) 04:12:14.59 ID:mEcRfjijo
 バンッ、と無意識に机を叩く。一瞬にして頭に上った血が、罵詈雑言を浴びせようとする。
 ……寸でのところで留まったのは、まだ話が終わっていないから。
 続きがある。それを聞くまで、冷静でいなければ。

「ですが、ファッションデザイナーとしては、です。あなたは衣服を作るとはどういうことだと思いますか?」
以下略



11:名無しNIPPER
2016/03/12(土) 04:12:41.22 ID:mEcRfjijo
 あの講師の当たりの強さは嫉妬だと老人は語った。
 講師は仕立屋になりたかったけれど、その才能がなかった。つまり、そういうことだ。

「え、デザイナーってそういう仕事じゃなかったの?」
「流石に市場に流通するものを全部作ることはできないでしょ」
以下略



12:名無しNIPPER
2016/03/12(土) 04:13:10.45 ID:mEcRfjijo
 ――カランコロン、とベルがなった。
 妙齢の女性が店の奥から姿を現す。幾つかのマネキンとたくさんの布の前を通り過ぎ、その人の前へと到達する。

「あ、あの! わ、私っ」

以下略



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