416: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:27:55.53 ID:HgV8Ahl2O
永井「たまたまだよ。日誌の内容が有益だと思ったから読んでおくことを勧めただけで、そんな意図はなかった。僕は合理的に判断を下しただけだ」
悠里「わかってる。永井君はそうだもの。でもね、永井君がそんな人だったからこそ、わたしはさっきみたいに考えるようになったのよ?」
417: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:28:55.93 ID:HgV8Ahl2O
永井は、美紀のこの願いが、自分の静かで平穏な生活への望みとどれほど差があるのか考えてみた。美紀の願望はあくまで情緒面から生まれたものであり、社会的・物質的にある程度の水準を満たした生活の保証を願望する自分のそれとは異なるものだろうと永井は結論づけた。いっぽうで、美紀の情緒的な願いは、現実的な生活基盤があってこそ成り立つもので、その点では彼女の願いは永井の願望の延長線上にあると言ってもよかった。
現在のところ、と永井は考えた。彼女の願望と自分の願望は到達点は異なるが、目的とする方向は一致しているかもしれない。だとしたら、美紀たちと共同して活動することは悪い選択肢ではない。永井は合理的に判断して、引き続き学園生活部に所属することを決めた。だが、なぜ自分がそのような結論を下すのに、ふたたび合理的な思考を展開したのか、永井がその理由に気がつくことはなかった。
418: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:29:50.76 ID:HgV8Ahl2O
『……い存者を捜索中』
『応答せよ、応答せよ。こちらーー』
419: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:31:05.22 ID:HgV8Ahl2O
悠里「ゆきちゃん、いまの聞こえたわね? すぐに屋上に……って、永井君!?」
永井は放送室から飛び出し、自分が使用している部屋に向かった。隠してあったバックパックを取り出し、肩にかける。バッグの中身は、地下倉庫から持ち出した数日分の食糧と水に医療物資、予備の武器、地図、コンパス、単眼鏡、懐中電灯、ライター、ロウソク、電池、ポンチョ、寝袋、テント、その他サバイバル用品などだった。
420: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:32:01.36 ID:HgV8Ahl2O
由紀「ま、待って、けーくん!」
永井「なんだ? 時間がないって言っただろ」
421: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:32:49.32 ID:HgV8Ahl2O
悠里「そろそろ……」
胡桃「ああ、そうだな」
422: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:35:13.36 ID:HgV8Ahl2O
胡桃「気休めなんかじゃないぞ。あいつは絶対死なないからな」
美紀「……」
423: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:36:40.43 ID:HgV8Ahl2O
美紀はいつのまにか微笑んでいた。自分の言った言葉が気休めではなく、心の底からの思いに変わっていることを感じながら。学園生活部の先輩たちは、もうこのさみしがりの後輩を心配しなくてもいいと思った。
胡桃「それじゃ、いくか」
424: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:39:10.04 ID:HgV8Ahl2O
ーー屋上
屋上に出ると、ヘリコプターのホバリング音が上空から聞こえてきた。音のする方向に目を向けると、そこには迷彩色が施されたヘリコプターが学校から西の方角の上空で待機している。
425: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/07/08(金) 23:42:29.23 ID:HgV8Ahl2O
由紀は屋上についたときから、いやな予感を抱いていた。上空に浮遊するヘリコプターの存在は、卒業という門出の行事にはふさわしくないように思えたからだった。しかし、永井がこの校舎から旅立ち、再会を信じながら次は自分たちが卒業するのだというそのとき、美紀たちに、来訪者に不吉な予感を読み取ったことを伝えるのは、由紀にとっては恐ろしい行為だった。
ヘリの揺れはいよいよ大きくなっていった。ホバリングしている地点で左右に揺れているだけだった機体は、突然そのバランスを崩し、機首を上下に激しく揺らしながら、制御を失っていった。
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