535: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/09/01(木) 23:25:51.56 ID:0CmWCKBVO
胡桃たちが洗濯から戻ってくると、悠里と美紀が朝食の用意をしていた。胡桃は永井を呼んでくるように悠里に頼まれ、それを引き受けた。キャンピングカーから出ると、黒い粒子が空に向かって真っ直ぐ伸びているのが目に入った。黒い粒子の狼煙は永井のテントのあるところから昇っていて、亜人か胡桃と同じ状態のものなら遥か遠くからでも見渡せる。
胡桃は狼煙の袂へと歩いていった。すでにテントはたたまれていて、制服姿の永井がキャンピングチェアの背に頭を乗せているほど浅く腰かけていた。両足を地面に投げ出し、手には、武田泰淳『ひかりごけ』の文庫本を持ち、戯曲部分を読んでいる。永井の目は、船長が首の後ろにある光輪の存在に言及する箇所を追っていた。それは、こんな台詞だった。
−− 船長 私には見えませんよ。しかし、あなた方には、見えるはずなんですよ。よく見て下さい。もっと近くに寄って、よく見て下さい。
胡桃「永井、りーさんが朝ごはんできたって」
永井「ちょっと待って。このページで読み終わる」
胡桃は待ってる間、キャンピングチェアの肘掛に積んであった本のタイトルを読んでみた。以下、そのラインナップ。
−−シエサ・デ・レオン『インカ帝国地誌』、コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』、コーネル・ウールリッチ『マネキンさん今晩は_コーネル・ウールリッチ傑作短編集〈4〉』、藤本タツキ『ファイアパンチ』、大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』
胡桃はいちばん上にあった『インカ帝国地誌』を手に取り、しおりが挟んであるページを開いた。第32章、「すべての者が人肉を食べていた。」とそこには記述されていた。次に手に取ったのは『ファイアパンチ』だった。これだけがマンガだったので、ほかの本との違和感が際立っていた。
胡桃「おまえ、マンガとか読むんだ」
胡桃はパラパラとページをめくりながら言った。
永井「丈槍さんから借りた。けっこう面白いよ。僕は代わりにスウィフトの『穏健なる提案』が収録されてる本を貸したっけ」
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