4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:06:27.01 ID:vxIFxQsM0
あの夜のことは、いまでもはっきりと覚えている。
5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:07:36.12 ID:vxIFxQsM0
せっかく自分の夢を叶えられる仕事に就いた、そのはずだった。
人気のしない夜道をひとり帰りながら、自然に溜め息が漏れる。
6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:10:08.98 ID:vxIFxQsM0
大手芸能プロダクションに勤めて数年、プロデューサーとしての実力も漸く身についてきた。
担当したアイドルも、B級にまでなら安定してランクを押し上げてやれるほどには、なった。
ここに至るまでの過程で、自分なりのアイドル育成論のようなものも確立できたし、競争の激しい業界でも、少しは名前が通るようになった。
7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:13:14.34 ID:vxIFxQsM0
俺は、数多存在するアイドルの中で、頂点を取るアイドルを育ててみたかった。
いわゆる、"トップアイドル"と称されるものだ。
そのアイドルのプロデューサーとして、一番近い位置で、頂に君臨する瞬間に立ち会いたかった。
8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:14:02.98 ID:vxIFxQsM0
「アイドル、とっても楽しかったんですけど、私じゃきっと、プロデューサーさんの意には沿えないから」
9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:18:32.64 ID:vxIFxQsM0
数時間前に聞かされたセリフがフラッシュバックする。
担当していたアイドルに話があるといって呼び出されて、聞いてみればこれだった。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:20:37.48 ID:vxIFxQsM0
彼女をプロデュースしながら、俺は不安になった。
だけど、たった一人、傍で彼女を支えられる俺が逃げ腰になってはいけないと思い直し、弱音は飲み込んだ。
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:22:22.68 ID:vxIFxQsM0
普通なら中断させるほどのペースで、彼女はレッスンをこなした。
この娘なら、トップを狙えるかもしれない。
そう思えたからこそ、俺はすべてをかけて彼女を応援した。
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:23:40.62 ID:vxIFxQsM0
このところ、出会った当初に見せてくれた、花のような笑顔を見ることがなくなっていた。
嬉々として聞かせてくれた趣味の話も、ぱったりと途絶えていた。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:26:01.46 ID:vxIFxQsM0
自分の靴音だけがいやに響く路地を歩きながら、俺はさっきから同じことばかりを考え続けている。
俺は彼女に、満足な指導やプロデュースを行えていたのか、ということ。
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