1: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 02:17:19.87 ID:4HWhAH1h0
   
  ※ このssにはオリジナル設定やキャラ崩壊が含まれます。  
     
  ===  
    
   くらくらと目の前を、紫煙の煙が揺れていた。  
     
   紫煙とは煙草の先より立ち上る煙のことであり、「紫煙の煙」と続けると、それは重言となるのだが、  
   この場合に大切なのはそんな些細な誤りではなく、口に出したときのリズム感なのである。  
    
  「手、止まってますよ」  
    
   そんな僕を見て、ソファーに座る春香が言う。  
   その顔は手元の雑誌に落とされており、いかにも自分は興味は無いが、  
   私が言わないわけにもいくまいといった様子が見て取れた。
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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 02:19:22.05 ID:4HWhAH1h0
   
  僕はもごもごと口を動かして、「あぁ、うん」と答えると、手元の書類に視線を戻す。 
   
  壁掛け時計の針の音と、時折春香が雑誌をめくるぱらぱらという音だけが部屋の中に響く。 
   
3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 02:19:57.04 ID:4HWhAH1h0
   
 「今、何時だい」 
  
 「さぁ、何時でしょう」 
  
4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 02:21:47.26 ID:4HWhAH1h0
  
  そうして二人、のたりくたりとただ時間を過ごすのだ。のたくたのたくた、のたくたのたくた。 
   
 「よしっと」 
  
5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 02:22:25.12 ID:4HWhAH1h0
   
  一蹴されて、僕は再び書類に視線を戻す。あぁちくしょう。やはり白紙は白紙のままだ。 
   
  ここの事務所は二人きり。のたりくたりと、針の無い時計が鳴っていた。 
6:名無しNIPPER[sage]
2016/03/27(日) 07:55:39.25 ID:fsHqNRKy0
 モバ付けろカス 
7:名無しNIPPER[sage]
2016/03/27(日) 09:03:42.65 ID:1Ncpn22Ko
 つける方がおかしい 
8:名無しNIPPER
2016/03/27(日) 10:45:31.08 ID:CrPnW+8e0
 スクリプトだから 
9: ◆Xz5sQ/W/66[sage]
2016/03/27(日) 13:44:33.77 ID:4HWhAH1h0
 === 
   
  のたくたのたくた、時計の針は進む。 
  だが、針の無い時計の針がいくら進もうと、流れた時間は計れないのだ。 
   
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 13:45:41.69 ID:4HWhAH1h0
   
 「一声かけてくれれば、僕も一緒に行けたのに」 
  
 「どこに行こうっていうんです」 
  
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 13:47:41.50 ID:4HWhAH1h0
  
  ソファーから立ち上がった春香が、備えつけの給湯室へと消えていく。 
  そう、彼女の言うとおり、僕らは事務所を出る事ができなかった。 
   
  ここの窓には、鍵がない。閉めっぱなしにしたままで、開くための取っ手が消えていた。 
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 13:48:35.43 ID:4HWhAH1h0
  
  不思議な話だが、世の中は不思議で作られている。 
  不思議で作られているのだから、不思議な事が起きたとしても、それはなんら不思議ではない。 
   
  結局のところ、僕らはのたくたと時間を過ごすところに落ち着いた。 
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 13:50:07.32 ID:4HWhAH1h0
  
 「これで時間が潰せますね」 
  
  春香が、冷めた瞳で言い放つ。僕はわくわくしながらリモコンを受け取ると、 
  ソファーの隣、台の上に乗せられたテレビの前へと向かう。 
14:名無しNIPPER[sage]
2016/03/27(日) 19:19:34.25 ID:dWBAtM1o0
 モバ付けろカス 
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:23:20.81 ID:4HWhAH1h0
 === 
  
  雪が積もって真っ白になった景色の事を、一面の銀世界と言うならば、 
  視界を埋めるこの真っ白な書類の事も、一面の銀世界と言えるのではないだろうか。 
   
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:24:40.93 ID:4HWhAH1h0
   
  書いても書いても、色はつかない。 
  そうだ、だからこの書類は真っ白なままなのだ。 
   
  無意味な事をやっている。 
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:25:54.39 ID:4HWhAH1h0
   
  僕はどこからともなく取り出したスコップを使い、そこに雪だるまをこしらえてみた。 
   
  ひとつ、ふたつ。 
   
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:26:46.78 ID:4HWhAH1h0
   
 「どうしました?」 
  
 「あぁ、スコップの柄が折れてしまってね」 
  
19: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:28:15.37 ID:4HWhAH1h0
  
  振り向くと、春香がそこに立っていた。 
  
  そしてここは事務所であり、雪の積もる銀世界では決してない。 
   
20: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:29:04.31 ID:4HWhAH1h0
 === 
  
 「春香」 
  
  僕は書類に隠されていた、蝶々のようなリボンを彼女に手渡す。 
21: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/03/27(日) 19:29:30.42 ID:4HWhAH1h0
   
 「今、何時だい」 
  
 「ちょうど、お昼です」 
  
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