過去ログ - 屋上に昇って.
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108:名無しNIPPER[saga]
2016/04/21(木) 00:35:33.27 ID:bdsiqCIlo

 雨に濡れた猫は、その猫の、子供だった。
 まだ、生きていた頃、猫が産んだ子供だった。

 黒い猫だった。
 真っ黒な猫。

 うちで飼っていたのは白猫だったから、きっと、相手が黒猫だったのだろう。

 黒猫。

 子猫は、まだ開いていない瞼で、おぼつかない足の動きで、何かを求めるように体を動かした。
 自分を守ってくれる誰かを探すみたいに。

 でも、そんな存在はどこにもいなかった。

 瞼が開いたなら、そのことはすぐに分かるはずだった。

 それでも、彼女の瞼はまだ開いていなくて、だから、彼女は、ただ手がとどかないだけかもしれないというふうに、前足を伸ばし続けた。
 よろよろとした、頼りない足取りで。

 その猫に、俺が何を出来たのか。

 何も出来やしなかった。

 疎まれた猫。祝福されなかった猫。愛されることを奪われた猫。捨てられた猫。

 捨てたのは俺だ。
 俺が捨てた。

 ちゃんと覚えている。
 



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