289:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:36:10.93 ID:GNfKg3P3o
俺にも、そういうふうに見えた。
でも、どこかで冷静な自分が、そんな自分を諌めているのも分かる。
猫だ。
290:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:36:44.75 ID:GNfKg3P3o
「……ねえ、るー」
「はい?」
291:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:38:05.94 ID:GNfKg3P3o
猫は俺たちが追いかけはじめるのを見ると、すぐに歩き出した。まるで導くみたいな足取りで、ゆっくりと。
道路も横切らずに横断歩道を使った。赤信号すら律儀に守っていた。
るーも俺も、その不思議さに何も言わなかった。
292:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:38:48.00 ID:GNfKg3P3o
「……不思議になるんだよな」
「何がですか?」
293:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:40:09.61 ID:GNfKg3P3o
日差しに歪む視界のなか、夏の気配にまぎれて、俺達は猫の影をどこまでも追う。
「……だいきらいって、言ったことがあるんです」
294:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:40:43.50 ID:GNfKg3P3o
るーの手を握った。
彼女は、こちらを見上げてくる。
295:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:41:40.42 ID:GNfKg3P3o
「だから、わたしにとって、あの夏は特別なんです。
あんなふうに過ごせなければ、今みたいには、なれなかったかもしれないから」
296:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:42:06.42 ID:GNfKg3P3o
その約束を、どうして俺は、今まで忘れていたんだろう。
父のことが、よだかのことがあったから?
時間の流れが記憶を薄めて、実感を遠ざけたから?
297:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:42:34.83 ID:GNfKg3P3o
「そんなことないですよ、きっと。タクミくんは、がんばってきたんだと思う。
わたしには、ちい姉や、すず姉がいたから。だから、不安にならなかっただけです」
「……」
298:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:44:16.85 ID:GNfKg3P3o
俺たちが足を止めると、猫は静かに、目の前の家の敷地に入っていった。
べつに、変わったところのない家だ。
しいていうなら、周囲に並ぶ家よりも、いくらか古そうな感じがするくらい。
299:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:44:46.73 ID:GNfKg3P3o
◇
「どうぞ」
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