296:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:42:06.42 ID:GNfKg3P3o
その約束を、どうして俺は、今まで忘れていたんだろう。
父のことが、よだかのことがあったから?
時間の流れが記憶を薄めて、実感を遠ざけたから?
297:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:42:34.83 ID:GNfKg3P3o
「そんなことないですよ、きっと。タクミくんは、がんばってきたんだと思う。
わたしには、ちい姉や、すず姉がいたから。だから、不安にならなかっただけです」
「……」
298:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:44:16.85 ID:GNfKg3P3o
俺たちが足を止めると、猫は静かに、目の前の家の敷地に入っていった。
べつに、変わったところのない家だ。
しいていうなら、周囲に並ぶ家よりも、いくらか古そうな感じがするくらい。
299:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:44:46.73 ID:GNfKg3P3o
◇
「どうぞ」
300:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:45:35.93 ID:GNfKg3P3o
「その子に見覚えは?」
俺の膝の上の猫を示して、女の人は静かにそう訊ねてきた。
301:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:46:01.63 ID:GNfKg3P3o
「……」
みゃあ、と猫が鳴いた。首を傾げてから、俺の手の甲をぺろりと舐めた。
302:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:47:19.05 ID:GNfKg3P3o
みゃあ、とまた、猫が鳴く。
「……なついてますね」
303:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:48:29.31 ID:GNfKg3P3o
でも、もし、猫の引き取り手が見つかったなら、俺はもう少しマシな記憶として、猫のことを覚えていそうなものだ。
……あるいは。
自分の手で助けられなかったということだけを、覚えていただけなのか。
304:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:48:57.80 ID:GNfKg3P3o
◇
また来てね、と女の人は言った。猫は別れ際、門柱の脇に座って、「みゃあ」とまた鳴いた。
305:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:49:26.84 ID:GNfKg3P3o
俺の表情を見て、るーは不満気に口をとがらせる。
「あのね、タクミくん」
306:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:49:59.09 ID:GNfKg3P3o
……困ったな。
俺が生まれなければ、よだかは幸せになれたかもしれない。
俺がいなければ、もっと、世界は上手くまわっていたかもしれない。
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