過去ログ - ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/04/06(水) 04:27:35.08 ID:yjfF0art0
男がスーツに大枚をはたいているのは、別にそれが生きがいとか道楽だからではない。単純に、アイドルたちのためだった。
まだ凛たちが知名度のない駆け出しだったころ、アイドルを連れて外回りをするとき、男は必ず服を着替えてから営業に出ていた。社用車のなかで何度も待たされたことがある凛は、そのことについて面倒ではないかと問いかけたことがある。だが男は笑ってこう答えた。
『どんなに美味しい料理だって、器がダメだったら台無しなんだ。高級フレンチが紙皿に乗って出てきたらどう思う? その道何十年の寿司職人が握った寿司が、プラスチックのパックに入ってたら幻滅だろ? それと一緒だよ。俺は新人アイドルっていう未知の料理を乗せる皿なんだ。そしてこの業界には似たような料理がいくらでもある。そのいくらでもある中で、少しでも手に取ってみようという気にさせないとダメなんだ。だから俺は、みんなの魅力を引き立たせてくれる服を選ぶ。最初の一口を知ってもらうために、全力を尽くしてるんだ』
それを聞いた凛は、あっけに取られた顔で自分のプロデューサーをまじまじと見つめた。そしてふと気付く。自分と外回りに出るとき、彼はいつも同じスーツを着ていることに。
『ん? ああ、これは凛のためのスーツだからな』
わざわざ買ったのかと聞くと、男は何でもないことのように笑った。
『凛は愛想がないからな。相手が誰でも怯まないし、そこにいるだけで迫力というか貫禄があるから、初対面の相手にはその雰囲気を少し和らげないといけない。他の子のスーツだとそれができないから、仕立ててもらったんだ』
そのとき、申し訳なく思ったことを凛は覚えている。
まだ、アイドルになったばかりのころだった。なりたくてなったわけではなかった。アイドルとか芸能界に憧れていたわけでもなかった。ただ何となく閉塞感を感じていて、毎日が少し息苦しかった。代わり映えのしない日常。いつまでも続く平穏。この先、死ぬまでずっと平和なのかと思うと、心がわけもなく重くなった。何かが変わらないだろうか。何かが起こらないだろうか。そう思っていた矢先のスカウトだった。
だがスカウトを受けたからといって、人生が劇的に変わったわけではなかった。むしろ鬱屈は増した。同じ時期に仲間になった卯月は養成所でずっと努力を続けてきていたし、未央は自分からオーディションに飛び込んで合格した。そんな二人に対して自分はどうだろうか。なんとなく生きてきて、なんとなくアイドルになっただけだった。レッスンは頑張っているつもりだが、卯月とはそもそも土台からして違った。未央の集中力とセンスは素人の凛からみてもずば抜けている。二人と比べて優れた要素が一つもない。そんな自分のためだけに、わざわざスーツを仕立てたという。
その期待が、重くて。応えられない自分が、腹立たしかった。
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