過去ログ - ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」
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12:名無しNIPPER[saga]
2016/04/06(水) 04:28:48.36 ID:yjfF0art0

 ――私なんかのために、そこまでする必要なんてないのに。

 うつむき、そう本音をこぼした凛に、男はこう言った。

『だって悔しいじゃないか。凛はこんなにも素敵な女の子なのに、俺の努力が足りなくて、それを人にわかってもらえないなんてさ』

 凛は弾かれたように顔を上げた。男はハンドルを握り、前を向いたまま続ける。

『それと、私なんかって自分を見下げることなんてするな。レッスンが上手くいってないのは知ってる。凛が自分と二人を比べてることもわかってるよ。

 卯月は下地ができてるからダンスもボーカルも安定している。身体の軸がぶれないからステップのリズムも正確だ。未央は動きが荒いがそれを補って余りある素質がある。ちょっとしたミスも笑顔一つで取り返す度胸と、それを許される愛嬌も大したものだ。あの二人は方向性こそ違うが、アイドルとしての素晴らしい才能がある。あの二人と比べると、まだ凛は動きも固いし声も伸びも足りてない。

 けどな、あの二人とレッスンを続けて弱音の一つも吐かないのは、誰にでもできることじゃない。普通の女の子だったら、ただのレッスンでも一カ月、早ければ数週間であの二人に潰されるんだ。眩しすぎる才能に当てられてな』

 男はそこまで言ってから、いったん言葉を切った。ミラーを確認して注意深く車線変更する。

『それに、凛は二人のこと好きだろ?』

 ――嫌いじゃないだけだよ。

『それで充分だ。普通はな、アイドルになりたいのに、自分よりも明らかに優れた二人のアイドルとレッスンしてれば、卯月と未央の人間性に関係なく嫌いになるもんだ。なにせデビューすれば最大の敵になるんだ。憎むなというほうが無理がある。でも凛はそうじゃない。二人に嫉妬してないし、レッスンにしたって自分の力不足を責めてる。これは大きいことなんだ。

 誰が言ったかは覚えてないが、芸事は下手に習うと下手になるってのがある。うちの事務所にもっと金があれば最高のトレーナーをつけられたんだが、無い袖は振れないからな。自主レッスンで磨き合うしかない。凛ならそれができる。二人をまともに見ても潰れずにやっていける。卯月と未央の三人で高め合うことができる』

 ――でもさ、それ、私が足を引っ張ってるよね。

『まさか。卯月は凛がどんどん上達してるから先輩としてもっと頑張らないとって息まいてたし、未央はレッスンに張りあいが合ってすごく楽しいって言ってたぞ。凛がいるから、二人ともモチベーションが上がるんだ』

 ――本当?

『思い出してみろ。あの二人、楽しくてしょうがないって顔でレッスンしてるだろ』

 ――ふふ……そうだね。そうだったよ。


『凛はこれからどんどん伸びる。なにせ二人に一番近いところで、二人のいいところを盗めるんだから』

 ――そうかな。

『そうだとも。俺なんかが言うのもどうかと思うが、もっと自信を持ってもいいぞ』

 ――うん、ありがと。

『ああ、けどな、凛。繰り返すけど、お前には愛想がない』

 ――それは……自覚してる。

『だけどな、笑った顔はお前が一番かわいいよ』



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