3: ◆bwwrQCbtp.[sage]
2016/04/07(木) 19:41:11.26 ID:hs8LFNrfO
幸か不幸か、事務所には誰もいなかった。
休日の宵。
室内は闇だった。
俺はドアを開け、照明のスイッチを入れる。
事務所に入り、いつもの自分の席へ。
椅子を引き、腰掛ける。
加奈には、いかにも大事な用があるみたいに言ったが、本当は特に来る
必要はなかった。
加奈の前で平静を装うことが辛かっただけだ。
机の引き出しを開け、数枚がひと束になった書類を取り出す。
その一枚目。
ここ数ヶ月の間に加奈が受けたオーディションが列記してある。
それに加えて、今日のオーディションと、さらに次のオーディションも。
列記された最初のオーディションには、大きく丸がついている。
次からは太くバツ印。それが5つ連なっていた。
合否結果である。
今日のオーディションに、大きく×をくれる。
残っているのは、あと一つ。
5日後に控えた、春の大一番、春フェスの公開オーディションのみ。
大一番
つまり、有力どころがこぞって集まるということでもある。
この事務所からも、実力も実績もあるアイドルが多数エントリーしている。
もちろん他の事務所から出場するのも、錚々たる面々だ。
今の加奈の実力で、勝負になるかと問われても、返答に窮する。
公開オーディションなので、大きなステージで歌うことができるし、他の
有名アイドルのステージも見ることができる、むしろエントリーしたのは
そちらが目的であった。
厳しい。
それが現実だ。
そこを勝たないと、また一からやり直しになる。
せっかくのチャンスが。
いや、もしかすると、またとないチャンスだったのかもしれない。
そのチャンスが俺のせいで潰れようとしている。
やりようはいくらでもあった。
もっと早く、勝てそうなオーディションに出しても良かった。
今日にしても、全力を出し切れるようにしてやる努力と気遣いを怠った。
いや、俺が油断しなければ、最善を尽くしていれば、諦めなければ、その
前のオーディションでも勝てていた。しかもその無念を今日まで引きずって
いた。
悔いが残ることばかりだ。
悔やんでも悔やみきれない。
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