14: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:12:58.59 ID:qn31rgISo
『ん……?』
それだけの価値はきっと、あったのかもしれない。もちろん、なかったのかもしれないし、価値で測るようなものでもなかったのだろうけれど。そこに居たのは、一つの人影。
いや、人影なのだろうか。酷く角ばっていて、到底人には見えない。とうとうここまで視力が落ちたか、なんて思って眼鏡をはずし、息を吐きかけてから安物の不織布で拭う。
それでも、そこに居たのは何か角ばった存在だった。
(やばいなあ、ボケてるなあ、僕)
と思って、自分の体調がやられたのかと危惧するも、その懸念は杞憂に終わる。何のことはない、本の山を抱えた人影だっただけの話だ。
(……いや、本の山を抱えて公園を歩くって、なんだよ)
そもそもふらつくほどの本を抱えている人なんて、国会図書館でも滅多に見ないだろう。その人影はあっちへよろよろ、こっちへよろよろと、なんとも危なっかしい足取りでちょうど、僕の視界の左から右へと進んでいく。
見ると、どうやら女性のようだった。あまりよく見えなかったけれども、本に隠れきれそうなほど、その体が華奢で細かったこと。その本に隠れきれないほとんど、艶やかで黒々とした綺麗な長髪が揺れていたこと。
そして何より、その本をかかえる腕、長袖のカーディガンからちらりと見えるその手が、まるでガラス細工のように透き通っていて。それでいて、白鷺のように純白に見えたこと。
判断を下すには十分すぎる情報量だった。……それにしたって、あまりにも抱えすぎなんじゃあないだろうか。あの量じゃ、僕だって辟易する。
もっとも僕だってとりわけ膂力に優れているわけでもないのだけれど。だから女性にとってはもっとつらいだろう、ということは容易く理解できた。
とはいえ――まあ、僕には関係ないことだ。そう思って、本に目を落とそうとした。時間でいえば、あと三十分ほどは読書に励める。
そう思った時だった。
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