過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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30: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:46:12.13 ID:k7FwQOIQo
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「今回の経済コラム、読ませてもらったよ。良くできてる、まあ誤字とか、表現の一部はこっちで変えさせてもらったけどね。確認してくれるか」

『ああ、はい。わかりました』

「よろしく頼むよ。これの中に入ってるからね。あと、今回と前回の分、まとめて稿料だ。明細とあと、年末調整用の書類も入ってる」

 午前十一時過ぎ。僕は出版社の応接室に居た。目の前にいるのは四十代そこらか、まだ行っていないぐらいの若い編集長。

 上京してから二年ほどたって、いろんなルートを伝って出会った人だ。当時はただのライターだったが、食うに困って書いた記事を妙に気に入られてそれからの付き合いになる。

 そんな編集長は実家が本屋らしく、高校卒業後に業界へと飛び込んだのだという。今では一年ほど前に新設された『Webニュース部門』の統括役に抜擢されていた。

 継いだ本屋は趣味半分で今も続けているそうで、なんだか僕と少し似ているようにも見える。そこから統括役になる辺りは僕と大きく違うけれども。彼もまた、”一兎”を追った者なのだろう、と思ったものだ。

 そんな人が、初めて会ったとき以来結構な頻度で僕に記事の執筆依頼を投げてくれる。なんでも、

「君くらいの文章を書ける人間が在野にいるんだ、使わん訳がない」

 と、妙に手放しで褒めてくれるのだ。まあ、悪い人ではないだろうし、きっと本心からそう言ってくれているのだろうけれど。それでも、僕自身はその評価に首を傾げざるを得ない。

 もちろん、まるきり無能ではないと自分でも信じている。そうでないとこんな仕事を引き受けたりなんてしない。

 だが、それでも『趣味』の延長線上に近しいのだ。プロ根性なんて、あるはずもない。



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