31: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:46:48.76 ID:k7FwQOIQo
(ここまで褒められるほどのものじゃないと思うんだけどね……)
内心そう思ったところで、ニコニコ顔の編集長に言うわけにもいかず、僕は受け取ったタブレットから自分の書いたコラムを読み始める。
書いていることは他愛もないことだ。僕の知っていること、本を読んで知ったことを、つらつらと書き連ねただけ。円安だとか、原油価格だとか。専門家からすれば、何をいまさらな内容で。
32: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:47:16.71 ID:k7FwQOIQo
『……はい、これで問題ありません。すみません、いつもお手数をおかけして』
「なに、こういうのが編集者の醍醐味だからね。全く校正の必要がないなんて、それこそつまらん。俺の存在意義を奪わんでくれよ、はっはは」
タブレットを返しつつ僕が言えば、編集長は酷く上機嫌な様子でそう返す。それに、僕は苦笑というか、愛想笑いというか、なんとも微妙な笑みで返しながら、稿料と書類の入った封筒の中身も確認せず、リュックに突っ込んだ。
33: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:47:44.75 ID:k7FwQOIQo
『ええと、特には。……変わり種っていうのは?』
僕が訝しむような表情をしていると、編集長は少し笑って、
「はは、そうびくつかんでもいい。マグロ漁船に乗せようってんじゃないさ。実は俺の古い友達が最近妙なことを始めてね」
34: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:48:21.67 ID:k7FwQOIQo
「まあ、正直俺も良くわからん。いつも突然連絡が来て、やれこういうものはないのかだの、それこういう奴はいないのかだの、ごり押し千万でね」
今回も数日前にいきなりこのメールが来て、もうてんやわんやさ。そう、編集長は困ったように、しかし嬉しそうに言った。まるで、頼られることがとても嬉しいことのように、だ。
正直、気乗りはしなかった。なんだか、自ら台風のただ中に突っこんでいくようなものだと感じている。それでも――なぜか、引き受けたほうがいいような気が、していたのだ。
35: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:48:49.77 ID:k7FwQOIQo
(なにせ、好きなことしかやらない我がまま野郎だからなあ……)
人から見れば、そういう僕は人間だ。そして自分でもそう思う。それでいいと思っているのだから、なおの事救いがない。そんな扱いづらい人間を、どうしていつも使ってくれるのかは、良くわからないけれど。
だからこそ、こういう無茶苦茶な話に縁があるのかもしれない。僕は、ゆっくりと息を吐きだして。
36: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:49:19.93 ID:k7FwQOIQo
「んじゃ、あとでメール送っておくぜ。忙しい奴だから、もしかしたらちょっと連絡がつくのに時間がかかるかもしれないけれど。それでも、数日中には連絡が入るだろうよ」
『はい、ありがとうございます』
僕はぺこり、と頭を下げた。少し眼鏡がずり落ちそうになる。それを右手の中指で押さえつつ、顔を上げて。そして、今度こそお暇しようと立ち上がる。
37: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/12(火) 22:51:17.85 ID:k7FwQOIQo
お言葉の数々、ありがとうございます。
もう少し投下の予定でしたが、急な呼び出しがあったのでひとまずは以上で更新といたします。
後ほど、再度投稿するかもしれません。ありがとうございました。
38: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:28:36.68 ID:MBJxBtU4o
□ ―― □ ―― □
『……? あれ、知らない番号からだ』
39: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:29:04.53 ID:MBJxBtU4o
『はい、もしもし』
「んむ? 意外とすぐに出るのだな。……ああ、失礼。これはPくんの携帯で合っているかな?」
『え? ああ、はい。そうですが。……失礼ですが、どちら様で?』
40: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:29:30.84 ID:MBJxBtU4o
ただまあ、連絡が来てしまったものはどうしようもない。少々心の準備が出来ていなかったが、腹を決めて話を聞くことにしては、
『いえ、お話は伺っています。なんでも、ライター兼エンジニアを探しているとか?』
僕はそう答えた。じゃじゃ馬云々はとりあえず伏せておくことにして。そうでないと、もしかしたら編集長の立場が悪くなるかもしれない、とちょっと思ったから。
41: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:30:03.08 ID:MBJxBtU4o
そもそも、時間も報酬も融通が利くなら、適当な広告代理店とデザイナー会社に発注を掛ければいい話だ。併せて百万そこそこ。
芸能プロダクションという特殊性と継続的なメンテナンス費用とサーバー代を合わせたって、上乗せ四十万から五十万と言ったところだろう。
なのに、それらの仕事を全部ひとりの人間が――まあ、継続的なメンテナンスとかは除いたとしても、到底できるはずもない。エンジニアと一括りにしても、その中にはいくつかのジャンルがあるのだから。
165Res/170.71 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。