過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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45: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:32:20.63 ID:MBJxBtU4o
(また、積まれる本が増えるなあ)

 なんて、自分に少し呆れつつ僕は棚を一つ曲がり、また一つ曲がり。店の奥、キャッシャーがあるだろう場所へと歩いていく。

 ただでさえ、今読んでいる本が三部作で、しかも一部ごとに上下巻のある超大作なのだ。ついでに言えば、前日譚なんかも読み始めれば、向こう一週間ほどは楽に消えるだろう。

 部屋の一面を埋め尽くさんばかりの本の割に、積んでいる本は少ない。ほぼ全て読みつくしているとはいえ、気が向けばもう一度読みたい本というのは山ほどある。それを全て消化できるのはいったいいつごろになることやら……。

 そんなことを考えていたものだから、ぼうっとし過ぎていたのだ。そう、思った。本棚を曲がった先、カウンターに座る、店員だろう人影があった。

 刹那、僕は目を瞬かせて、自分に対して呆れたように、

(……とうとう、幻覚見るようになったか)

 と内心で呟いた。

 僕は天井を仰いで、ふう、と息を吐く。一呼吸、二呼吸。そうして、再び前を見る。キャッシャーの置かれたカウンター。一つの人影。変わらない。

 黒絹のような長い髪。僅かに見える陶磁器のような白い肌。肩に掛けられた紫紺色のストールが、少し揺れて。前髪に隠れた目は、手元の本をじっと眺めている。

 まるで、一つの芸術作品のような佇まい。決して動くはずもない彫像を見ているような気分になって。だからこそ、僕は思った。いまだに朝の残像を引きずっているのかもしれない、と。

 まったく、馬鹿げている。僕は半ば自棄になったかのように、ゆっくりと歩みを進めて。カウンターの前に立てば、どうにもならない残像を振り払うかのように、言葉を吐く。



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