46: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:32:54.32 ID:MBJxBtU4o
『あの、すみません。これ、頂きたいのですが』
単なる残像だ、動くはずもない。そう思った。
……ゆっくりと、その顔が動いた。残像なんかじゃあ、なかった。じゃあなんだ? 奇妙なほどにまで頭が回らず、ただ、目の前の人物を見ていることしかできない。
僅かに揺れる前髪の隙間から、ブルートパーズのような瞳が見えた。それが、僕の掛けている眼鏡越しに、僕の目を覗き込んでいる。
“深淵を覗き込むとき、深淵もまた、貴方を覗き込んでいるのだ”。そんな言葉が脳裏をよぎる。その宝石のような、綺麗な目に覗き込まれて、そして吸い込まれそうになる。
持ちうる限りのあらゆる理性と意思を総動員することで、僕はようやく明瞭な意識を取り戻した。ただ、もしかすると……それが良くなかったのかもしれない。
『……あ』
おかげで、僕は目の前にいる女性が――今朝、ここからそう離れていない公園で出会ったあの女性であると、確信してしまったのだから。
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