49: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:34:19.62 ID:MBJxBtU4o
「……お返し、六五三円になります」
『あ、ええ。どうも』
「カバーは……お付けになりますか……?」
『ええ、と。お構いなく、じゃなかった。そのままで、はい、大丈夫です』
なんとも締まらないやり取り。いや、店員とただの客なのだからこれぐらいで普通なのかもしれないけれど。ただ、何となく得体のしれない緊張が僕の体を支配していて。
(……何、緊張してんだか、本当に。馬鹿みたいだ)
そんな自分に対する侮蔑と嫌悪に苛まれつつ、僕は釣銭を受け取る。……何となく、彼女の手に触れないように受け取ろうと努力しつつ、そんな風に妙な努力をしている自分を俯瞰して、また自己嫌悪。
なんだか負のスパイラル、無間の蟻地獄に陥っている気さえしてしまった僕は、この店に入ったときの気分の良さはどこへやら。尋常ではない居心地の悪さゆえにそそくさと店を出ようとする。
穴があったら入りたいどころの話じゃあない。穴が無ければ掘ってでも入りたい、ぐらいの勢いで。恥と自嘲とで頭が沸騰しそうになっている。もちろん、そんなことは僕の背後で本を読みに戻っている相手には関係のないこと。
(さっさと家に帰って、今日は早く寝よう)
いつもの自分ではありえないような発想がぽんと出ていることにさえ気づかず、そうして僕は買ったばかりの古書を小脇に抱えて古書棚の間を歩む。
その時だった。
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