過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
1- 20
48: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/04/13(水) 03:33:53.42 ID:MBJxBtU4o
「……はい、それでは、二千円から」

 彼女は朝と変わらず、とても小さな声でそう言って、少したどたどしい動きでキャッシャーを操作する。ぽち、ぽちとボタンをいくつか押して。そして最後に押したボタンの後、ガシャンと引き出しの開く音がした。

 そこから、たどたどしくもたおやかな動きで釣銭をつまんでいくその姿が、どうにもならないほどに眩しく見えて。僕は目を閉じて、天を仰ぐ。

 どうにも、朝から様子がおかしい。だが、原因も分からず、思い辺りもなく、自分で自分を訝しむことしかできずにいた。なんとももどかしい限りだった。

 そのうえ、朝のことを覚えていなさそうな彼女の素振りに、微かに落胆している自分を発見しては、自分で自分を殴りつけたくなる程度に僕は自己嫌悪に陥っている。

(恩着せがましい奴だな、僕は。ああ、もう)

 どうもやはり、僕はおかしいらしい。こんな事、上京してきてから今まで一度もなかったのに。まさか体調不良なのかと思ったものの、ここ数年は風邪さえひいた覚えがない。

 だからどうしたというものだろうけれど。それでもやっぱり、単なる体調不良のそれは違うのだと、僕の中の何かが訴えかけている。そういえば今朝であった時から、妙な違和感があるけれどもそのせいだろうか。

 もちろんそれが何かは分からなかったし、分かろうとも思っていなかったわけで。どうしようもこうしようもない。おかげで阿呆面を晒しながら棒立ちしていることしかできず。

やがて、彼女の陶磁器のような白い肌の手が僕の方へと伸びてきて、僕に何かを差し出していた。その手に握られていたのは、レシートと釣銭。なんのことはない。店員としてのお仕事だ。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
165Res/170.71 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice