過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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6: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:09:31.79 ID:qn31rgISo
□ ―― □ ―― □

 ……寒さで、目が覚めた。はあ、と吐いた呼気が酷く白い。ただ、おかげで寝覚めは悪くない。いや、一般的に言えば悪いのかもしれないけれども、眠気はすでに吹き飛んでしまっている。僕にとっては、それは寝覚めがいい事に他ならない。

 横になったまま、ふと触った腕は、まるで氷のように冷たくて。布団に潜り込んでいたはずの足や体も、冷え冷えとしている。そもそも、部屋の中の温度自体が異様だった。外気温と大して変わらないのではないだろうか。

 まあ、そんなことはいつものことだ。このアパートに来てから七度目の冬。都心からちょっと外れたワンルーム。お家賃、二万九千円。風呂、空調などついているはずもなく、トイレも共用の値段相応。

 なんとも、僕にお似合いの物件じゃないか。そんなことを思いながら、ゆっくりと時計を見る。時計は午前六時を指そうとしていた。

 床に入ったのが三時過ぎだから、二時間半ほど寝たことになる。何となく、いつも通りの睡眠時間。もはや慣れてしまった。ふと窓の外を見ると、まだ暗い。

『……蛍雪の功ってわけではないんだろうけれど』

 僕はなんとも薄っぺらい煎餅布団から起き上がると、ごわごわのファージャケットを着こんで、小さな電気スタンドの電源を入れた。空調なんてないから、部屋の中でも厚着しないと本当に凍死しそうになる。

 ちかり、ちかりと二度ほど明滅を繰り返して、折り畳み式のちゃぶ台の上が明るくなると、ほぼ同時に置いていたスマートフォンの画面がちかり、と点滅した。メールが届いていたらしい。見ると、世話になっている出版社からのメールだった。

 メールを確認すると、どうやら原稿データを直接持ってきてほしいらしい。それで、今日が原稿の受け渡し日であり、稿料の受領日だったということに気付く。

 傍にあった眼鏡に手を伸ばし、詳しい内容を確認する。予定時刻は十一時。このアパートから徒歩十五分の位置にある駅から、電車で十分か十五分くらいの都心にある出版社だから、九時過ぎに出れば十分間に合うだろう。



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