過去ログ - 唯「天使再来襲」
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:44:18.60 ID:skFt6CMPo


バリケードに最後の思い出をむりやり押し込むと、やるべきことはなにもなくなってしまった。
通学カバン、机が4つに椅子が6つ、オルガン、ソファー、譜面台、動物の着ぐるみ、さわちゃんが集めてきた服たち、ホワイトボード、食器棚、ティーカップ。
引っ越しの時みたいに部屋は空っぽで、ほこりやちりが舞っていた。夕暮れできらめく。
残ってるのは、ドラムス、ベース、ギターがふたつに、キーボード。
でも今はちょっと演奏するような気分じゃない。
りっちゃんが、部屋の真ん中にぺたりと座り込んで言った。

「だけどなんで気づけなかったんだ?」

誰もなにも答えなかった。
みんなが疲れていた。
ムギちゃんは落ち着かなそうにあたりを歩き回り、わたしはバリケードの横に立って、てっぺんから何かがすべり落ちるたびそれを拾ってまた一番上にのせていた。澪ちゃんは西側の窓の下に座り込み目をつぶっていた。
プールの底に背中をくっつけてゆがんだ空を眺めているときみたいに、時間の流れが遅く感じられた。
鳥の声やサイレンの響きやソフトボール部のかけ声が遠く聞こえる。
塩素まみれの生ぬるい水がオレンジ色に揺れている。
やがて天使がやってきて、扉をノックした。
こん。こん。こぉぉん。
みんな動かなかった。
音が鳴るたびにちょっと震えて、緊張。
だるまさんがころんだで鬼がふりむく瞬間の感じ。そうじゃなかったら、ノックの音が金槌でくぎを打つ音でそれが少しずつわたしたちの身体に刺さって動けなくなるみたいな。
こん。こん。こぉぉん。
こん。こん。こぉぉん……。
しばらくすると音がやんだ。
ばさばさばさっ、って鳥が羽ばたき立つみたいな音。
扉が揺れた。
その隙間から一枚の天使の羽が落ちてきた。
箒の柄みたいに長い軸に、白くてふわふわした綿うさぎの毛が生えている。
大きな羽だった。
いつのまにか音は聞こえなくなっていた。
天使はどこかへ行ってしまったようだった。



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