過去ログ - 幸子「ドリーム・ステアウェイ」 みく「イントゥ・ヘル」
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53: ◆.nnFO3p0tfz9[saga]
2016/04/26(火) 16:57:32.99 ID:bET4RgXZ0
 十数メートル。
 立って向かい合うには遠いが、走ればほんの数秒で埋まってしまう距離――美嘉は、包丁を逆手に構え駆け抜けた。
 走り込む勢いに、包丁自体の刃の分厚さ、そして指すべき箇所を知った、知ってしまった事による慣れ。
 しくじる理由は何もなかった。
 意思を奪われた人形のような敵へ、肋骨の隙間を抜けるように刃を突き立てれば、どれ程の鮮血が吹き上がるかも知っていた。 
 幾度も繰り返したからだ。
 例え人殺しと罵られようと、溢れるばかりの血涙に手を浸そうと、美嘉はもう、止まるつもりは無い。
 自分以外の全て、例え世界を丸ごと天秤に掛けたとしても取り戻したいものの為に――

「っ、ぁああああああああっ!!」

 刃は、振り下ろされた。
 高垣楓は、背を向けたまま、消えるだろう敵の為に祈り、
 東郷あいは血で唇を染めたまま――

「――見事だ、幸子君」

 勝利を確信し、微笑んだのである。
 包丁の切っ先が天頂を向き、降下に転ずるより先、美嘉は見た。
 楓の精神干渉により、もはや指を動かす事さえ出来ない筈の幸子が、自らの懐に飛び込んで来る様を。
 完全な予想外の事象に、対応が遅れた。
 幸子の手が、美嘉の喉へ触れ、更に体ごとぶつかった勢いで、美嘉を廊下の壁際――窓際へと押しやる。 

 美嘉には見慣れたものとなった、血の飛沫。
 美嘉自身の喉から、それは赤々と弧を描いて床へ降り注ぐ。
 彼女の喉を抉ったのは、奇しくも彼女自身が武器に用いていたナイフ。半ばからへし折られても尚、十分な長さを誇る刃であった。
 痛みと驚愕で動けぬまま、何故、と問おうとするも、喉に空いた穴から空気が抜け、肺が膨らまない。

「――っ!?」

 背後の戦闘の音を聞いていた楓が、予測と明らかに異なる呼吸音に気付いて振り向いた時――
 城ヶ崎美嘉の体は、廊下の窓ガラスを破り、遥か十メートル以上も下、コンクリート舗装された自転車置き場へ転落していく最中であった。


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