過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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13:名無しNIPPER
2016/05/03(火) 22:54:05.18 ID:G1lrEIoLo

「闇……飲まれる……」

 蘭子のセカイにも触れるべく、まずは彼女らしい言葉遣いからアプローチしよう。
 蘭子の言葉を思い出す。ここまで何度も繰り返された闇は夜のメタファー、で合っているはず。
 ではその闇に飲まれる者とはどういったヤツなのか。彼が正しいのであれば意味自体は「お疲れ様」という返事で通じること――疲れたヤツが飲まれる闇。レッスンの疲労……それはそこまででもないな。
 空を見上げると陽は落ちきって、群青が漆黒へと塗りつぶされたがっていた。蘭子からすればボクらも闇に飲まれているに違いない。
 そのボクらは今、寮へと帰る途中だ。
 ……帰る?

「……フフ、だからお疲れ様なのか」

 思わず口にしてしまい、蘭子や先行して鼻歌まで歌っていた幸子もこちらを振り向いた。
 傍観者ではなくなってしまった――が、それもいいだろう。
 ボクのセカイは動き出しているのだから。

「いや、闇に飲まれよが気になってね。寮へ帰る途中のボクらは今、夜の闇に飲まれかけようとしている。その直前にプロデューサーへ送った言葉なら、それはつまり別れの挨拶――転じて、一日の役割を終えた労をねぎらう意味も含んでいそうだが、どうだろう」

「あー……わかるようなわからないような、でもそれならお疲れ様とプロデューサーさんが返したのも頷けますね。そうなんですか、蘭子さん?」

 幸子は納得してくれた、が。
 言ってしまった後で、闇なんて夜の他にも様々なメタファーとなり得るじゃないかとか、不安を煽る反証ばかりがちらついた。見当違いも甚だしく彼女のセカイを取り違えていれば、彼女を傷付けてしまうのは目に見えている。
 解ってもらえないのは、つらく、哀しいことだ。

 覚悟を決めて、蘭子の瞳に失望の色が浮かんでいないか確認すると、

「……う、」

 薄明かりではっきりとしないものの、言葉を詰まらせた蘭子の顔には、沈んだはずの夕陽が代わりに浮かび上がっていた。

「……うん」

「蘭子さん、もしかして恥ずかしがってます?」

「恥ずかしがってなどおらぬ! ……ククッ。そこまでの境地に達しようとは、やはり『瞳』を持っていたのだな、飛鳥!」

「……フッ、どうだろうね。プロデューサーがくれたのかもしれないよ」

「ボクは貰ってませんよそんな『瞳』なんて! なんですか、ボクだけ仲間外れなんですか!?」

「天に使えし者には我が魔翌力の波動を見定められぬか……」

「あ、今のはなんとなくわかりましたよ。ボクがカワイイのがいけないってことですね!」

「そういうことにしてあげようか、……蘭子?」

「うむ! 今宵は我も寛大なるぞ!」

 それからというもの、寮に着くまで他愛もない会話が途切れることはなかった。
 ボクより先に非日常を生きていただけあって変わったヤツらが多い。変わっていて、そんなに変わらない。その一員にボクは迎え入れてもらえたかな。
 ボクのセカイは、諦めることで余計な傷を負わなくするための、孤独に満ちた退廃的で閉鎖的なものだったけど。
 こんな帰り道も――良いものだ。



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