28:名無しNIPPER[saga]
2016/05/10(火) 23:37:36.17 ID:/gCBb+6Yo
蘭子からボクの分のトレイを受け取り、部屋の中へ招き入れる。もっぱら作業台として使っていた備え付けの簡素なテーブルを食卓として誰かと囲むことになろうとは。
「飛鳥……その身に刻まれた煉獄の呪いは未だ解けぬか?(飛鳥ちゃん、熱は上がってない?)」
あ、戻った。
「どうだろう。指摘されるまで自分でも気付かなかった微熱さ、たいしたものじゃないよ」
「ならば明日には全快しておろう。……常夜を彩るミサを開く刻も、今宵ではない、か(明日までには治りそう? この後お喋りしたかったけど、今日はだめかなぁ)」
「ふふ、看病してくれるのではなかったのかい? 眠くなるまでの喋り相手ぐらいなら、身体に障ることもないんじゃないかな」
「……! ククク、このような刻でもなければ祝宴の幕を上げたものを。さて、今宵我等に捧げられし贄より魔力を補給するとしよう(わーい! って本当は喜んじゃだめだよね。それじゃあご飯食べよっか?)」
「あぁ。……、いただきます」
独りの時にわざわざしたりしない食前の挨拶も、誰かと一緒ならしてもいいかという気になる。不思議なものだ。
蘭子が運んできてくれたのはハンバーグを主菜に、ポテトサラダ、野菜の多く入ったミネストローネを副菜へ置いた洋風なメニューだった。どれもまだ冷めてはいない。
これだけのものをコンビニで買い揃えたところで、満腹にはなっても満足はしなかったろう。千円は掛かるだろうし、14歳の中学生にとって一食でそれは痛過ぎる出費だ。
それを抜きにしても、食堂で提供された今日の献立は有り体に言って、とても美味しそうだ。
「はっ、深紅の秘薬と漆黒の霊薬……そなたはどちらを所望する?(あっ、ケチャップとソース……飛鳥ちゃんはどっちがよかった?)」
二種類から選べたらしい。どちらでもよかったが、気分で選ぶとするなら――
「蘭子が好きだという方を食べてみたかったかな。トマトソース派かい?」
「う、うむ。しかしよいのか?(う、うん。でも本当にいいの?)」
「今は蘭子とセカイを共有していたいんだ。たとえそれが、ほんの些細なことでも」
彼女とは解り合えると思ったから。
……そうじゃないな。
彼女と解り合いたいと願ったから、仮面を被っていては言葉にしにくいことも今なら言える。誰に求められたわけではなく、ボクがそう求めているんだ。
彼女の言葉を即座に汲み取れるようになっていたのも、『瞳』や素質なんかよりそういう意志の差に過ぎなかったのだろう。努力家の彼のために付け加えておくと、ボクにとっては、ね。
蘭子は、ボクに何かを求めてくれているのかな。
彼女の仮面が一時的にでも外された意味。ボクに何を訴えようとしていたのか。
幸い時間はあるし、ここなら誰に邪魔されることもない。食事を済ませたら……改めて会いにいこう。
また会わせてくれるだろうか。ボクの知らない、素顔の神崎蘭子に。
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