29:名無しNIPPER[saga]
2016/05/10(火) 23:45:46.25 ID:/gCBb+6Yo
中身が空になった二人分のトレイを、運んできたカートごと蘭子が返しにいっている間にボクはベッドへ潜る準備を整える。後は歯を磨くだけだ。
軽くシャワーも浴びておきたかったが明日の朝に回すことにした。蘭子いわく「揺り籠にて多量の生命の雫を精製し穢れを祓うとよい(眠ってる時にたくさん汗かいて治しちゃおう)」とのこと。
微熱のせいもあってか身体が重い。ボクには少し量が多かった夕食のおかげで満足感もあり、まだ眠るには早い時間だけどそのうち眠気もやってきそうだ。
とはいえ、蘭子がボクを看てくれる間に話したいことは山ほどある。山……どこかからフフーン、と鼻を鳴らす誰かさんの声が聞こえた気がした。
そこへ再びノックの音が響く。幻聴ではなく、現実に打ち鳴らされたものだ。
「生命の起源もこれだけあれば今宵を乗り越えられよう(お水たくさん持ってきたよ!)」
「蘭子、さすがに一晩でそれは……」
どこから持ってきたのか2Lのミネラルウォーターを2本、何もなくなったテーブルの上に蘭子は鎮座させた。
容態が今より悪化したとしてもこれを全て汗の一部として消化するのは無理だ。……まぁ、気持ちだけ受け取っておこう。喉が乾いたらベッドを出なくて済むし、残してもペットボトルならどうにでも保存しておけるのだから。
歯を磨き終え、ベッドに半身を潜らせる。完全に横になってしまっては話しにくいので上体は起こしたままだ。蘭子からは横になるよう忠告されたけど、そこまで体調は悪くないのと厚着をすることでなんとか納得してもらった。
「……ねぇ、蘭子。聞きたいことがあるんだ。いいかな」
休息を欲しがる身体に逆らっていられるうちに、ボクは本題を切り出す。
ベッドの空いている所に座らせて同じ高さに目線のある蘭子は、まるでそうなることを解っていたかのように、ゆっくりと頷いた。
「どうしてボクに、ここまでしてくれるんだい?」
共に過ごした期間はまだ短い。ボクらの生きた14年という歳月から比較しても、そこまで思い入れられるほどの時間を共にしたとは思えない。
――違う
ボクらは僅かにベクトルの向きは異なるけれど、出発点はとても近いところにある。似て非なるもの、いつかのボクは彼女へそう答えていた。彼女もその回答に頷いていたはずだ。
――解っているくせに
ボクにシンパシーを感じているから? 彼と出会うまで誰かに解ってもらうことを諦め、自分だけのセカイを望み孤独を選んできたボクに?
――そうじゃないだろう?
全てを解れやしなくても、彼女のことを知るために。ボクは問わずにはいられない。
「答えてくれるかな。ううん、答えてほしい……聞かせてほしいんだ」
「……。私、ね」
ぽつりと、「彼女」は現れた。
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