30:名無しNIPPER[saga]
2016/05/10(火) 23:50:54.63 ID:/gCBb+6Yo
「あの人に……プロデューサーにアイドルにしてもらうまで、ずっと私は独りだと思ってたの」
彼女は穏やかな表情で、過去を懐かしむように語ってくれた。
どこかで聞いたことがあるような――彼女の物語を。
「私が”私”でいることを、周りの誰にも望まれていなかった。”私”でいちゃいけないんだって、遠回しに言ってくる人もいて」
「そんな時、あの人に出会えた。私が”私”であることを認めてくれて、”私”でいられる場所をくれた……」
「けど、その時はそれだけだったの。”私”のことは認めてくれても、”私”の言葉はここでもなかなか通じなくて」
「やっぱり独りのままなのかなって思った。それでもやっと認めてもらえた”私”をどうしても捨てられなくて、捨てたくなくて……何も言えないまま、気付いたら倒れちゃってた」
飛鳥ちゃんよりも酷かったかな、と彼女ははにかむ。
心労も重なっていき、しかし体調不良を訴えることも出来なかったのだろう。訴えたところで伝わらないと、それまでの経験が彼女を諦めさせていたから。
「病院のベッドで目を覚ましたら、あの人がずっとついててくれたみたいで、すごく謝られちゃったな。お前のことをもっと解ってやれていたら……だって。ふふっ、休みたいとも素直に言えなくなってた私が悪いのに、おかしいよね」
彼を思い、柔らかい微笑を零している。その顔にボクはどこかで見覚えがあった。彼女のものではない、誰かの……。
急に、胸が締めつけられる。
「それからしばらく、時間さえあれば”私”とお話してくれたの。他の子のプロデュースもあったはずなのに、あの頃だけはほとんど付きっきりみたいになっちゃって」
「そのことについて、あの人が受け持ってるアイドルの人達から何か言われたりはしなかったな。みんな知ってたんだね、あの人がああいう人だってこと」
理解することを諦めない、諦めの悪い彼。
ボクも知っていた。……知ったばかりだけど。
「”私”の言葉の意味が通じるまで何度も聞いてくれて、諦めずにずっと側で”私”のことを見ていてくれる……『瞳』の持ち主」
「飛鳥ちゃんも、そうだったよね。”私”の言葉を理解しようとしてくれた。初めて一緒に帰ったあの日、すごく嬉しかったんだよ?」
『瞳』の持ち主とはそういう意味だったのか。
ボクがプロデューサーから『瞳』を貰ったというのも、あながち間違いではないのかもしれない。
「飛鳥ちゃん、熱があるのに黙ってたからあの時の私を思い出しちゃって。あの人がそうしてくれたように今度は私が飛鳥ちゃんに、できることならついててあげたかったの。大事なことなら、前よりはちゃんと素直に話せるようになってきたし、それに」
「独りはつらいから……。私のことを気遣ってくれたり解ろうとしてくれる人も増えてきたんだ。だから飛鳥ちゃんにも――私だって、飛鳥ちゃんより少しだけアイドルの先輩だもん。幸子ちゃんばかり頼られててずるい!」
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